商業高校2
学びがリアルな社会とつながる
商業科で身につけるビジネスの力
商業高校と聞くと、簿記や情報処理、資格取得のための学校というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし今、そうしたイメージは大きく変わりつつあります。知識を覚えるだけでなく、実際の課題を題材にした「課題解決型学習」を取り入れるなど、多くの商業高校で学び方が進化しています。
商業高校の魅力を紹介するシリーズ第2弾。今回は、商業科で行われている「課題研究」という授業に注目し、その学びの中身を紹介します。第1弾はこちら。
社会で生きるビジネスの知識と技術を学ぶ
商業高校では、国語・数学・英語などの普通科目に加え、簿記や会計、情報処理、マーケティングなど、ビジネスに関する専門科目を学びます。お金や商品の流れ、企業の仕組み、情報の活用など、社会や仕事と深く関わる知識や技術を高校生のうちから学べることが特徴です。
さらに近年では、資格や検定の取得だけでなく、学んだ知識や技術を実際の社会で活用する機会も広がっています。自分たちで課題を見つけ、アイデアを考え、人と協力しながら形にしていく。そうした実践を通して、社会に出てから必要となる力を身につけていくことも、現在の商業高校の大切な学びの一つです。
愛知県立豊橋商業高等学校
学校と社会がつながる豊橋商業高校の「超実学」
今回訪れた豊橋商業高校には、「グローバルビジネス科」「会計ビジネス科」「ITビジネス科」の3つの学科があり、それぞれの分野で専門性を高めながら、学んだ知識を実際のビジネスや社会の中で生かす力を育てています。
また、DXハイスクールとして、高性能パソコンや3Dプリンター、ドローンなどを利用できる環境も整えられています。最新の機器に触れるだけでなく、授業の中で実際に使いながら、これからのビジネス社会に必要となる知識や技術を身につけています。
こうした学びをさらに一歩進め、学校の外に実践の場を広げているのが豊橋商業高校の特徴です。間瀬泰宏校長はこうした学びを「超実学」と表現し、「学校と社会に隔たりがあるのではなく、ビジネス社会の中に豊橋商業高校があるというイメージです。」と話します。
その一つが、生徒の「海外で商品を売ってみたい」という声から実現したベトナムでの販売実習です。生徒たちはクラウドファンディングで約70万円を集め、8人が現地で商品販売を経験しました。間瀬校長は「日に日に生徒たちの顔が変わっていくのが分かりました。」と振り返ります。
在学中に起業したいと校長室を訪れ、会社を立ち上げた生徒もいました。自分のアイデアを実現しようと、新たな挑戦を自ら提案する生徒も増えているといいます。間瀬校長は「学校は、失敗を安全にできる場所。高校3年間で挑戦や失敗を経験してほしい。それが社会に出た時の力になります。」と、生徒たちの挑戦を後押ししています。
また、文化祭では生徒がキッチンカー業者と交渉し、オリジナルメニューを企画するなど、学校行事にも実社会との接点を取り入れています。
今回取材した「課題研究」も、こうした実社会とつながる学びの一つです。「課題研究」とは、商業高校の専門科目の一つで、生徒自身がビジネスや地域社会などに関する課題を見つけ、グループで調査や研究、実習などを通して解決策を探っていく授業です。
豊橋商業高校のグローバルビジネス科「グローカルコース」では、週1回の授業の中で、2年生は地域課題、3年生は地域の居場所をテーマに、それぞれ異なるプロジェクトに取り組んでいます。
高校生のアイデアで、豊橋の課題に挑む
2年生の「課題研究」では、豊橋商工会議所青年部と連携した「地域課題の解決を探るプロジェクト」に取り組んでいます。テーマは「観光」「食」「選挙」「防災」の4つ。生徒たちはグループに分かれ、豊橋の課題を自分たちの視点で見つけ、解決策を考えます。今回は、そのうち「食」と「防災」、2つの班の取組を紹介します。
プロジェクトの目的は、地域が抱える課題を高校生ならではの視点で見つけ、その解決の一助とすること。そして、生徒たちに「街をよくするのは誰かではなく、自分たちだ」という意識、いわば「シビックプライド」を持ってもらうことです。生徒たちは、行政、地域団体など、実際に街で活動する大人たちと連携しながら、1年を通して地域の課題と向き合っていきます。
取材当日は、各班が中間発表を終え、そこで出された意見を下にアイデアをさらに深めていました。
「食」の班が取り組んでいたのは、食品ロスを減らすための商品開発です。規格外の野菜や果物などを集め、スムージーや乾燥食品などに加工し、新たな商品として販売できないかを検討しています。
班の生徒のひとりは「授業を通して食品ロスに興味が湧いてきました。規格外の野菜や果物を使って、自分たちで考えた商品を実際に販売できたらと思っています。」と話します。商品についてアイデアを出すだけでなく、実現するために必要なことを一つずつ考えていくことで、学びを深めています。
この生徒が豊橋商業高校への進学を決めたきっかけの一つが「商品開発」だったそうです。「中学生の時に、高校の実施する体験会や文化祭に参加し、先輩たちが企業と協力して商品をつくり、販売する姿を見て面白そうだと感じました。」そして今、自分自身が商品開発に挑戦する立場となり、自分たちで考えた商品を実際に販売したいという次の目標を描いています。
避難所の"当たり前"を 高校生が問い直す
「防災」の班では、災害時の避難所について課題を探っています。この日は、子どもたちが安心して過ごせる避難所について話し合いました。
「子どもといっても、0〜3歳ぐらいの小さな子と、小学生・中学生では対応の仕方や必要な設備が違います。ペット同伴の人や高齢者などもいる中で、避難所のスペースをどう分けるかが大事だと、調べていく中で分かってきました。」と生徒。こうした違いを踏まえ、段ボールを使って避難所の中を区切る工夫や、子どもたちが防災について楽しく学べる方法を考えています。
今後は、自衛隊の人に実際の災害時の対応について話を聞けないか検討していくそうです。「話が聞けたら、今出ている案が現実にできそうなのか検証したい。」と話します。また、自分たちのアイデアが市などに採用される可能性があることについて尋ねると、「全部は無理でも、一部だけ採用されることもあると思う。自分たちの案が形になるかもしれないと思うとモチベーションが上がります。」と声を弾ませます。
本気の挑戦を まちの大人たちが後押し
豊橋商工会議所青年部の担当者は、「実社会に近い学びを、高校生たちに体験してもらいたい。」と話します。大人にはない自由な発想にこそ価値があるといい、「自分たちのアイデアに自信を持って行動してほしい。それが実際に形になれば、生徒にとって大きな自信につながると思います。」と、生徒たちの挑戦に期待を寄せます。こうした経験の積み重ねが、将来の豊橋を担う人材を育てることにもつながっていくといいます。
1月のフォーラムでプロジェクトの成果を発表する予定で、生徒たちが考えた地域課題への提案を、行政や地域の関係者などに伝える機会も設けられています。発表だけで終わるのではなく、その後の取組につなげていくことも目指しているそうです。
地域にある220の「居場所」の魅力をカードで発信
豊橋市内には、認知症カフェや子ども食堂、妊活カフェ、高齢者の集まりなど、世代や立場を超えて人が集まり、つながることのできる220箇所の「居場所」があります。3年生の課題研究では、こうした地域の「居場所」をもっと多くの人に知ってもらうための「居場所220 魅力発信プロジェクト」に取り組んでいます。
しかし、地域にはさまざまな居場所がある一方で、その存在が必要な人に十分届いていなかったり、それぞれの活動や魅力が知られていなかったりする課題があります。そこで生徒たちが考えているのが、地域の居場所を楽しく知ってもらうための、カードゲームのような発信ツールです。
実際に訪れて見えてきた「居場所」の魅力
カードづくりを進める中で、生徒たちから「実際にその場所を見てみたい」という声が上がり、取材当日は認知症予防カフェ「ポカポカの森 アンキカフェ」を訪問しました。「アンキ」には、愛知県の方言で「安心する」「ほっとする」という意味が込められています。
訪問前、生徒の一人は、このカフェについて「認知症の人や高齢者が行く場所」というイメージを持っていたといいます。しかし、実際に足を運んでみると、消防士や市議会議員、経営者、カウンセラーなど、世代や立場を超えたさまざまな人が集まっていました。
「他にもたくさんカフェがある中で、なぜここに来るんですか。」 生徒が利用者に尋ねると、「初めて会った人とも自然に話ができて、人とつながれるから。」という答えが返ってきました。開設当初から通う女性は、「七夕や流しそうめん、クリスマスなどの催しを楽しみにしている。」と言い、「人が集まるのは、運営する人の人柄や一人ひとりを大切にする雰囲気があるから。」と話します。別の利用者からは、「職種を超えて、友達のような人脈が広がっていく。」、「誰かが会話に誘ってくれたり、自分の意見を話せたりする、自分の出番がある場所。」という声も聞かれました。こうした声を聞く中で、生徒たちが感じ取ったのは、この場所ならではの温かく気楽な雰囲気でした。
「人柄」や「思い」まで伝わるカードへ
生徒たちは、施設の理事長にも話を聞きました。アンキカフェを始めたきっかけは、理事長自身の家族の介護経験でした。コロナ禍と重なったこともあり、外出や人との交流が減るなかで、周囲の笑顔が少しずつ失われていく状況を目の当たりにしたそうです。「もっと気軽に、安心して集まれる場所をつくりたい。」という思いが、アンキカフェの出発点となりました。
ある生徒は、「好きなことや、ここに来る目的が、実際に話を聞くことで明確になった。」と話します。理事長からは、「こういう人に来てほしい」という運営側の思いも聞くことができたそうです。
こうした取材を踏まえ、意識しなければいけないのは、新しい利用者を呼び込むことだけではないと生徒は言います。「今あるお客さんを大事にすることプラス、新しいお客さんを呼び込むこと。今の利用者がどう思っているかを聞いた上で、新しい人を呼び込むPRやカードを考えたい。」
また、別の生徒が印象に残ったのは、「雰囲気や人柄を感じられた」こと。実際に利用者や運営者の声を聞いたことで、インターネットで調べるだけでは分からない、この場所の魅力に気づいたそうです。そこで活動する人自身を知ってもらうことも大切だという利用者の意見も踏まえ、行ってみたい、会ってみたいと思ってもらえるようなカードづくりを目指すそうです。
課題研究を通して、ある生徒はこう振り返ります。「学外の人に会ったり、実際にその場所に出向いたりして、自分たちで考えて物を作る。そうやって他の人と協力し、様々な経験ができるところが、商業高校のいいところだと思います。」
高校で「何を学びたいか」という気持ちを大切に
最後に、中学生や保護者に向けて、間瀬校長に進路を考える上で大切にしてほしいことを聞きました。
「進路選択で一番大切なのは、悩むことです。高校についてしっかり調べ、自分が何をしたいのかを考えて、とことん悩んでほしい。そして、自分で決めたら、そこに全力を傾けてほしいと思います。」
間瀬校長は、学校を成績や難易度で上下に並べるのではなく、「何を学べるのか」で比較してほしいと話します。「進学校が一番手、二番手にあって、その下に商業や工業がある、という選び方ではなく、進学校も商業も並べて、『ここでやっていることもいいな』という視点で選んでほしい。」
そのうえで、ビジネスを学ぶことについてこう続けます。「人生100年といわれる時代、高校を卒業した後の約80年を、どう生きるのか。これから長く過ごすことになるビジネス社会で必要な考え方や力を、高校生のうちから学べることに意味があると思います。」
商業高校には、社会とつながりながら未来を描く学びの環境があります。
豊橋商業高校 間瀬 泰宏 校長
DATA
愛知県立豊橋商業高等学校
(豊橋市向山町官有地)
地域では「豊商」の愛称で親しまれる県立商業高校。簿記・会計、情報処理、マーケティング、商品開発など、ビジネスに関する専門的な学びを展開している。資格・検定の取得に加え、企業や地域団体と連携した商品開発や地域課題の解決、起業教育など、実社会とつながる実践的な教育にも力を入れている。卒業後は、大学・短大・専門学校への進学をはじめ、地元企業への就職や公務員など、多様な進路が広がっている。
(令和8年7月取材)





