家庭科
生きる力 暮らしの実践力育む
家庭科の専門学科で人間力アップ!
家庭科といえば、料理や裁縫。そんなイメージはありませんか?小学校、中学校で学ぶ家庭科でも印象に残っているのは、調理実習や小物を縫う授業ではないでしょうか。でも、それはほんの入口にすぎません。
愛知県内の高校には、生活文化科や生活デザイン科と呼ばれる専門学科があり、家庭科に関する内容をより深く、広く学ぶことができます。調理やファッションはもちろん、保育、福祉、消費生活など、暮らしにまつわることを幅広く学べるのが特徴です。そこで今回は、家庭科の専門学科のリアルな姿をのぞいてみることにしました。
衣食住に関する学びを深める家庭科の専門学科
愛知県内の高校には、生活文化科や生活デザイン科など、家庭科に関する内容をより深く、広く学べる専門学科があります。家庭科の基礎的な知識・技術を学んだうえで、自分たちでレシピを考えたり、衣服のデザインをしたりというクリエイティブな学びに発展させていきます。衣食住にとどまらず、消費生活や保育、福祉、情報など、暮らしにまつわることを幅広く学べるのも魅力の一つです。
学科名は高校ごとに異なり、食物科、ファッション創造科のように、より分野を絞って専門的に学ぶ学科もあります。
愛知県立大府高等学校
今回取材に伺ったのは、大府市にある愛知県立大府高等学校の生活文化科です。普通科の家庭科の授業は週2時間(1年生のみ)ですが、生活文化科では1、2年生で週12時間、3年生になると全体の半分にあたる週15時間が家庭科の授業にあてられます。食物や被服など、実習を中心とした授業が多く、「知識を学んで終わり」ではなく「学んだことをすぐに実践できる」のが、専門学科ならではの魅力です。
生活文化科主任の榊原先生によると「本校では、1学年8クラスの内、2クラス約80名が生活文化科に在籍しています。食物、被服、保育、福祉など社会で役立つ知識、技能を中心に学習します。座学だけでなく、実習や体験を通して社会とつながる力を育む授業内容が特長です。」と説明します。
食物分野では主に、栄養に関する学習や調理に必要な学びを踏まえ、和・洋・中などの様式別にメニューを考えて実践します。また、被服分野ではファッションに関する知識と和洋裁の技術を基礎から学び、様々な作品を製作します。保育分野では、乳幼児の発達の特徴や子育て支援などについて学び、将来の家庭生活や社会の一員としての役割を考えていきます。
1、2年生は全員が同じカリキュラムで、家庭科に関する基礎・基本を学習。3年生からは服飾コース、食物コース、生活コースの中から希望のコースを選び、さらに学びを深めます。「80名のうち、半数の約40名は生活コースへ進みます。生活コースでは、応用的な調理と被服製作の両方を学習。選択科目で英語を選ぶことができるため、進学に対応した力を強化することもできます。」と榊原先生は話します。
大府高校 生活文化科 主任 榊原 弘美 先生
社会 ・暮らしで役立つ生活力を身に付ける
全国高等学校家庭科技術検定の食物調理1級の課題として
食物コースの生徒が考案・調理した献立
“やりたいことが見つかる、得意を伸ばせる!”を合言葉に、衣食住のみならず、社会生活で役立つ知識や技能の習得を目指す大府高校生活文化科。その象徴的な授業の一つが、1年生の「生活産業基礎」の授業で実施するインターンシップ体験です。飲食店や物販店、アパレルショップ、美容院、保育園や福祉施設などで就業体験を実施。事業所の協力のもと、生徒の職業観や勤労観を育むとともに、働く体験から得た気づきを自己理解や将来の進路選択に活かすための貴重な機会となっています。
他にも、専門学科ならではの特色ある授業を展開しています。2年生から始まる「生活文化」の授業では、日本の伝統的な家屋や古来のマナー、慣習などについて学習。毎年、外部講師を招いて「十二単(じゅうにひとえ)・直衣(のうし)着付け講習会」も実施しています。3年生の「消費生活」の授業では、消費者トラブルやキャッシュレス決済に関する内容など、消費者として心得ておきたい知識を習得します。
十二単・直衣着付け講習会
乳幼児ふれあい講座
さらに資格の取得にも注力。文部科学省後援による、思考力、判断力・表現力、創造力や段取り力、コミュニケーション力などを測る全国高等学校家庭科技術検定に関しては、1年生に3級と2級、2年生では準1級の取得を全員が目指します。3年生では、選んだコースに応じた1級の取得にも挑戦します。特に1級取得者は、高い専門性を持つと評価され、就職や進学に際してもアピール材料になります。
加えて2年生では、秘書技能検定3級を全員が受験。生活分野のみに留まらず、社会の中で生きていくために必要となる知識や実践力、社会人としてのマナー、未来へつなぎたい文化などを幅広く身に付け、総合的な人間力育成に取り組んでいます。
こうした幅広い学びについて、生徒は「入学前は調理と被服のスキルが身につく場所というイメージでしたが、「生活産業情報」の授業でパソコンを練習したり、「消費生活」の授業で消費者問題について学んだり、日本の文化に触れたりと、自分の可能性がより大きく広がる経験をたくさんすることができました。資格も多く取れて、それが自信へとつながっています。」と話します。
3年間の学びの集大成!
渾身のランチコースに感謝の気持ちを込めて
食物コースの生徒にとって、卒業前の一大イベントとなるのが、保護者を招いて行うランチパーティーです。メニューはすべて生徒自身が考案。前菜からデザートまで全6品、知多牛のビーフウェリントンをメインにした本格フランス料理のフルコースです。
当日の朝10時、調理室に生徒たちが集まり、仕込みがスタートしました。ミニトマトを飾り切りにする生徒、慣れた手つきで白身魚をさばく生徒、パイ生地で知多牛を丁寧に包んでいく生徒。それぞれが役割を持ち、調理室は賑やかな声と活気に包まれています。バターや赤ワインソースの香り、パイ生地が焼ける香ばしい香りが調理室いっぱいに広がり、本格的なコース料理が少しずつ形になっていきます。
ミニトマトを飾り切りに
野菜一つひとつの切り方にもこだわりが光る
魚の扱い方やさばき方もお手のもの
メインディッシュは知多牛のモモ肉をパイ生地で
丁寧に包んだレストランさながらの一皿
立体感や彩りのバランスを確かめながら
一皿一皿丁寧に盛り付ける
油で揚げた春巻きの皮を器にした『色とりどりな
ブーケサラダ ~感謝の気持ちを込めて~』
砂糖で煮たリンゴをバラの花に見立てた
華やかなデザート
パーティーの始まる正午が近づくにつれ、緊張感は一気に高まります。仕上げに集中する生徒の隣では、使い終わった調理器具を手早く片づける生徒の姿。息の合ったチームワークで、一皿ずつ料理を完成させていきます。
テーブルには、生徒から保護者へ向けた手書きのメッセージカードが添えられていました。普段はなかなか口にできない感謝の言葉をつづったカードを読みながら、涙ぐむ保護者の姿も。
色鮮やかな料理が前菜から順に提供され、いよいよコース料理のスタートです。
「高校3年間でこんなに料理が上手になっていたなんて。」、「おいしくて、見た目も美しくて感動しました。」保護者からの言葉に、生徒たちの顔にも笑顔があふれます。「練習の時より上手にできた。」、「学んできた成果を出し切れた。」、「コース料理が作れてとても楽しかった。自分の成長を実感することができた。」と、生徒たちからも達成感あふれる声が聞かれました。
3年間の学びが一皿一皿に詰まったランチパーティーは、生徒にとっても保護者にとっても、忘れられない時間になったようです。
「学んだことが形になる」 成長が実感できる家庭科の専門学科
大府高校・生活文化科を代表する行事が、秋の文化祭で開催されるファッションショーです。服飾コースの生徒はもちろん、食物コース、生活コースの生徒も、それぞれがデザインし、製作した衣装を着て一人ひとりがランウェイを歩き、スポットライトを浴びます。
1、2年生で全員が被服の基礎をしっかり学んでいるからこそ、3年次にどのコースを選んでいても自分で衣装を作ることができます。3年生全員がファッションショーに参加できるのは、大府高校ならではの魅力です。
裏方として参加した生徒は「出演者それぞれの思いが衣装として形作られていく、その光景を見ることができました。終わった後も『素敵なファッションショーだった』と言ってくださった方が多く、頑張ってきてよかったと思いました。」と話します。
また、高校生活での学びについて、生徒からはさまざまな声が聞かれました。
・衣食住の学びに加え、パソコン技術や資格取得など、生きていく上で必要な力が身に付いた。
・食物コースで学んだ料理の技術や栄養の知識をもとに、調理専門学校で国家試験に向けて勉強したい。
・授業で学んだ色彩や住まいづくりの知識を、大学でさらに深めたい。
・調理や被服の実習で身についた計画性や粘り強さを活かして、どんなことにも冷静にあきらめずに取り組んでいきたい。
・実践的な学びを通じてコミュニケーション能力が高まった。大学ではボランティア活動などに積極的に参加して、まちづくりに貢献したい。
榊原先生によると、生活文化科の生徒は約9割が進学を選択するそうです。「進学先は四年制大学、短期大学、専門学校と様々です。分野についても、調理・栄養、ファッション、保育、福祉、デザイン、美容などバラエティに富んでいます。単に技術を身に付けることだけが学習の目的ではありません。自分や周囲の人の生活をより豊かに充実したものにするために、高校時代の学びを活かしてほしい。専門学科を選ぶということは、その時点で将来の道を決定しなくてはならない、選択肢の幅を狭めてしまうと先入観を抱いている方もいるでしょう。しかし、生活文化科で身に付けることのできる生活能力、協力して何かを成し遂げる協調性や実践力などは、今後どのような道を選ぼうともきっと人としての強みになってくれるはずです。」と榊原先生。
中学生や保護者へ向けて「実習や主体的に考えながら取り組む授業が多いのも専門学科の特権。学んだ知識をすぐに試し、実践し、目に見える形で表現できるのも専門学科ならではだと思います。」と学びの魅力をアピール。これまで教室での勉強に苦手意識を持っていた生徒が、専門学科での学びをきっかけに「勉強って楽しい!」と感じるようになることもあるそうです。
「家庭科が好きな人はもちろん、調理や被服など手を動かしてモノを作ることが好きな人、今は苦手でもがんばってできるようになりたい人にとって、学びの実感を得られる場になるはずです。ぜひ、高校選びの選択肢として家庭科の専門学科を検討してみてください。」とのメッセージを送ります。
※榊原先生の「榊」は木へんに神
DATA
愛知県立大府高等学校(大府市月見町六丁目180番地)
全日制普通科、生活文化科、定時制を設置。「文武両道」を指導理念として、学習活動と部活動の両立を図り、「知・徳・体」のバランスのとれた人間形成に力を入れる学校です。生活文化科では“愛知のものづくり”を支える職業人として、社会に貢献する意欲の高い生徒の育成に取り組んでいます。
(令和8年2月取材)





