中学生あつまれ!ミライに広がる進路講座

 周囲を海に囲まれた日本は、漁業や養殖、海運、マリンレジャー、水産加工食品など、海や魚とのつながりを大切にした産業が暮らしや社会を支えています。こうした水産・海洋分野で活躍する人材の育成に取り組んでいるのが水産高校です。
 将来、海に関わる仕事を目指したい、魚に関わる仕事に就きたいと目標を描いている中学生にとって、水産高校は注目しておきたい選択肢の一つ。
 そこで今回は、水産高校の学びの魅力について取り上げます。


愛知県立三谷水産高等学校



海や魚と向き合い、体験を成長へ

 愛知県蒲郡市にある「愛知県立三谷水産高等学校」は、県内唯一の水産高校で、海や魚について実際に体験しながら学べるのが最大の特徴です。
 教頭の榎本剛志さんは「大切なことは机の前に座っているだけでなく、どんどん体を動かして学んでいくこと。失敗することもありますが、それも含めて前向きに挑戦する気持ちを育てています」と話してくれました。
 大型実習船による乗船実習をはじめ、海での漁業実習、小型船舶の操船実習、魚の養殖実習、海洋調査実習、ダイビング実習、マリンスポーツ実習、食品製造実習など、実習内容がとても豊富。まさに「海のスペシャリスト」を育てる学校です。


どんな学科・コースがあるの?

 三谷水産高校は、水産関連の6分野をすべて揃えた全国で唯一の水産高校です。


●海洋科学科 海洋漁業コース
船の操縦技術と漁業技術を身につけて、航海士や漁師を目指す。75日間の乗船実習やカツオの一本釣り実習が大きな特徴。


●海洋科学科 海洋工学コース
船のエンジンや機械の整備・設計技術を学び機関士を目指す。地元の自動車会社への就職実績も豊富。


●情報通信科
プログラミングや無線通信、電子機器、電気工事の技術を学ぶ。大手通信系企業や空港、船舶関連の業界で活躍する先輩が多い。


●海洋資源科 栽培漁業コース
水産生物の生態と養殖技術を学び養殖業の専門家になる。生物の飼育やダイビングなどの実習が中心。


●海洋資源科 海洋環境コース
海洋環境を守るための知識と技術を学習。ダイビング実習や環境調査実習で実践力を身につける。


●水産食品科
水産物の加工・管理・流通技術を学ぶ。調理実習や食品製造実習、販売実習が中心で、大学や企業と一緒に食品開発も行う。


愛情いっぱい!  魚と向き合う生徒たち

 生徒たちはどんな様子で実習に取り組んでいるのでしょうか。取材当日、海洋資源科のうなぎの養殖実習を見学させていただきました。





うなぎのエサを作る生徒たち


勢いよくエサを食べるうなぎ


 実習棟では、生徒たちが慣れた手つきでエサを作り、うなぎに与えています。エサを投入すると勢いよく集まるうなぎを、生徒は水槽の前で真剣に観察。うなぎの様子を見ながら仲間と話し合ったり、先生に相談したりしながら実習に取り組んでいました。
 休み時間には水槽をのぞきに来る生徒たちがいました。魚の成長に気づいてうれしそうに微笑む姿から、魚たちが単なる実習対象ではなく大切な仲間だと感じられます。生徒の一人は「生き物を育てることに興味があり入学しました。魚の生態を間近で学べ、成長する姿を見るのがとても楽しいです」と目を輝かせて話していました。


養殖するうなぎ


 また、同校は、うなぎの完全養殖化の研究に取り組んでいることで全国的に知られています。3年生の生徒たちが課題研究として代々引き継いでいます。
 担当の先生によると、うなぎは養殖するとオスばかりになってしまうそうです。そこでメス化を促すエサを開発し、採卵、人工ふ化に成功。今後の課題はシラスうなぎを成長させ、ビジネスモデルとして確立していくことだそうです。


ウナギの他にホンモロコも養殖している


全国でも希少な情報通信科

 全国で46校ある水産高校のうち、「情報通信科」があるのはわずか6校で、その1校が同校です。
 お話を聞いた生徒たちは、ドローンを使って漁業や養殖業を効率化する研究のために、この日はドローンの操作実習を実施。海藻が生い茂って稚魚が集まる藻場を空から観察し、その広がりや成長を調べていました。


ドローンを準備する生徒たち


高度や風向きに気をつけながら操縦する生徒


港を飛行するドローン


 将来的にはドローンに赤外線センサーを取り付けて、砂浜の温度を測定することで、あさりの生育調査にも活用する予定です。
 操作を終えた生徒は、水産高校を選んだ理由を「興味のあるプログラミング、そしてモールス信号など、普通科にはない学びができるから」と答えてくれました。
 他の課題研究では、電気工事士の資格取得、3次元CAD・3Dプリンターを使ったルアー作りなど、生徒が自主的にテーマを決めて取り組んでいます。


DXハイスクール指定校としての取り組み

 現在、漁業や養殖業は、後継者不足、人材不足という課題に直面しています。三谷水産高校では、こうした状況を踏まえ、最先端技術を活用したスマート水産業(生産活動の効率化を進め、将来にわたって続けていける水産業を目指す取り組み)の推進に着手。 
 DXハイスクール(※)の指定を受け、ICT機器を導入した養殖技術、自動給餌システム、養殖設備モニタリングシステム、食品開発に利用する微生物の自動温度管理システムなど、現場で役立つ技術の実験・研究にも取り組んでいます。

※DXハイスクールとは、文部科学省高等学校DX加速化事業で、情報、数学等を重視するカリキュラムを実施するとともに、専門的な外部人材の活用や大学等との連携などを通じて、ICTを活用した探究的・文理横断的・実践的な学びを推進する事業です。


将来の可能性がさらに広がる専攻科

 三谷水産高校は、高校(『本科/3年制』)での学びを活かし、さらにハイレベルな資格取得を目指す『専攻科海洋技術科(航海・機関・情報通信の3コース/2年制)』を設置。  
 航海・機関コースの修了生は三級海技士の受験資格が、情報通信コースの修了生は国家試験の一部科目免除が得られます。
 情報通信コースの修了生は国土交通省や海上保安庁、大手企業などで幅広く活躍しており、専攻科進学を目標に入学してくる生徒も多いそうです。
 また、専攻科修了後は4年制大学の3年次編入も可能で、将来の選択肢が大きく広がります。


【先生からのメッセージ】 教頭 榎本 剛志さん

「暮らしを支える水産業の担い手を目指そう」

 海のことに関心がある、魚を育てることに興味がある。そうした生徒にとって実習は、情熱を注げる実践の場だと思います。
 本校は、『海と人をつなぐ、海と企業をつなぐ』を教育の柱にした高校です。
 水産・海洋産業は日本社会においても欠かせない職業の一つ。さまざまな体験を通して海や魚への愛情を深めてもらい、将来はこれからの水産業を担う人材に育ってほしいと願っています。


【トピック】 新生・愛知丸 竣工!



 令和7年4月に4代目の実習船「愛知丸」が完成しました。総トン数581トンの大型実習船で、これまでの実習船のほぼ倍の規模となり、さらに遠くまでの航海が可能になりました。
 従来の75日間の乗船実習やカツオ一本釣り、船舶運航(操船・操機)実習に加え、海洋環境調査や漁業実習に対応。魚群探知機、スキャニングソナー、ARPA(自動衝突予防援助装置)、ECDIS(電子海図情報表示装置)など最新の設備をそろえ、生徒居住区も使いやすく設計されています。
 この愛知丸は、国際航海も視野に入れた次世代の海洋技術者を育てる場として大きな期待が寄せられています。


DATA

愛知県立三谷水産高等学校(愛知県蒲郡市三谷町水神町通2番地1)

 『海洋科学科(海洋漁業コース・海洋工学コース)』『情報通信科』『海洋資源科(栽培漁業コース・海洋環境コース)』『水産食品科』の4学科6分野を設置。水産高校では全国トップクラスの学科構成です。
 各学科において多彩な実習教育に力を注ぎ、実践力につながる資格取得に取り組んでいます。また、愛知県で唯一の水産高校であり、県内はもちろん、岐阜県や長野県などからも入学する生徒がいるため、学生寮も完備しています。

愛知県立三谷水産高等学校 ホームページ

(令和7年7月取材)


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