社会福祉法人 東加茂福祉会
60代・70代も活躍
長く働けるカギは“理想の介護”を実践できる環境
少子高齢化が進む中で、人材の確保、育成が大きな課題となっている介護業界。そんな中、愛知県豊田市の「社会福祉法人 東加茂福祉会(以下「東加茂福祉会」という。)」が運営する特別養護老人ホーム「巴の里」と「石野の里」の両施設では、幅広い世代の職員が協力し合いながら、長く働き続けています。
入居者も働く人たちも、笑顔が絶えない巴の里と石野の里。生き生きと働ける職場環境や、長く働き続けたくなる職場を実現するために、どのような取り組みをされているのでしょうか。副施設長の渡邉守さん、運営管理課長・在宅支援課長の柴田高臣さん、生活支援課長の江頭駿平さんにお話を伺いました。
現場と運営側の壁をなくし、風通しの良い組織づくり
左から運営管理課長・在宅支援課長の柴田高臣さん、副施設長の渡邉守さん、
生活支援課長・江頭駿平さん
創設以来「地域の福祉を守り、住み慣れた地域で自分らしく過ごしていただく」という思いのもと、地域の方にとっての安らぎの場所を提供している東加茂福祉会。職員一人ひとりが意欲的に、長く働きたくなる職場を目指し、組織改革に着手したのは令和6年12月頃だったそうです。
組織改革の一環として取り組んだのが、現場の声を吸い上げるための体制づくりでした。現場を熟知する江頭さんを新たに管理職に任命し、現場経験豊富な柴田さんをはじめとする管理職チームを強化。現場と運営側の垣根を越え、トップダウンではなく現場の意見を反映した働く環境へと改革を進めたのです。
気軽に意見を言い合える関係性を構築
江頭さんが管理職に加わったことを機に取り組んだのは、職員との定期的な個人面談です。「江頭さんが管理職に着任する前は、現場と運営側の橋渡し役を私が1人で担っていた時期もありました。当時は、現場でがんばる職員の気持ちに寄り添いたいという思いはありつつも、正直手が回っていなかったというのが現実でした。職員も"忙しそうだし"、"このくらいのことで相談するのも…"と、私に話しかけることをためらう場面も多かったのだと思います。江頭さんと協力して現場に目を向けられるようになったことで、不満や問題が大きくなる前に対処できるようになりました。」と柴田さんは話します。
個人面談を定期的に行うことで、面談の時に限らず、普段の関係性にも好影響が見られました。上司・部下、先輩・後輩といった肩書きにとらわれず、気軽に安心して意見が言いやすい雰囲気が生まれたそうです。
実際に現場の職員からも「運営側の事務方と現場の距離が近くなった。」、「これまでは決められた方針に沿って業務を進めていたが、今は目的やメリットなどを丁寧に説明してもらえるので、納得しながら進められる。」、「現場の意見を聞き入れてもらえるので、足並みを揃えて進めている感覚がある。」といった声が寄せられているとのことです。
定期的な個人面談の取り組みをさらに広げるため、組織改革後に副施設長として着任した渡邉さんは「現在、役職者や新入職員を対象に面談を行っていますが、私自身も加わることで、すべての職員に面談の機会を広げたいと考えています。現場で働く一人ひとりの声を拾い上げ、共にさらなる風通しのよい組織づくりに取り組んでいきたい。」と意欲を語ります。
介護機器の導入や役割分担で負担を軽減
多様な人材が長く働き続けるための施策は、設備面の充実にも表れています。職員の負担を減らすため、電動の介護リフトやスライディングボード(ベッドから車いすや、車いすからトイレなどへ移動する時に身体を持ち上げず、座ったまま滑らせることができる補助用具)などの介護機器を積極的に導入。移乗時(ベッドと車いす間などの移動)の負担を大幅に軽減しました。
電動の介護リフト
スライディングボードを使った介助
さらに、令和7年からは職員とも相談の上、オムツを交換する時に身体を拭くタオルを、布タイプから使い捨てタイプに変更。タオルの洗濯や衛生管理のために要していた労力と時間を減らすことで、ゆとりのあるケアへの効果が期待されます。
業務負担の偏りをなくすためのアプローチとして、スタッフ配置の見直しにも注力しています。入居者への直接支援を行う介護職員と、介護をサポートする労務職員、それぞれの役割分担を明確化。食事や掃除、洗濯物など周辺的な業務は労務職員が担当しています。
こうした役割分担のおかげで、直接支援を行う介護職員は専門的なケアに専念できるようになりました。同時に、多様な役割を設けることで、年齢や体力、家庭状況など、それぞれの条件や思いに合った働き方を選択しながら、個々のスタイルで仕事を続けられることにもつながっています。
休職期間を含め、20年ほど在職しているという荻野千佳子さんは、在職中に介護福祉士の資格を取得。資格取得後、正職員への道を考えたものの、家庭の事情もありパートタイマーとして働き続けています。
「長年働き続けていられるのは、自由度の高い働き方ができるからこそ。これまで出産・育児、介護など家族の状況やライフステージに合わせて、柔軟な働き方を受け入れていただきました。年齢を経た今は、力仕事を行う時は若いスタッフが率先してやってくれますし、介護用の機器も増えているので助かります。」と荻野さん。
また、「職員一人ひとりの意見にもしっかり耳を傾けて、真剣に向き合ってくれる職場です。誰にとっても100%満足できる職場なんてないですよね。でもここは、"自分がよりよい職場にしていきたい"という思いを実現できる環境があります。」と後輩にメッセージを送ります。
「今は、仕事に来るのが楽しみ。だから、1日でも長く働き続けたい。」と目標を語ってくださいました。
幅広い世代が楽しみながら働けるチームづくり
東加茂福祉会では、職員のモチベーション向上を目指し、従来の研修制度の見直しと充実を図りました。その一つが、外部講師を招いて行うリーダー育成プログラムです。リーダーとしての役割を担っている職員を対象に、4年間の体系的なプログラムを通じて、実践力やマネジメント力の向上につなげています。
リーダー研修の様子
「研修に際しては、外部の講師に任せるだけではなく、我々管理職も同席します。一人ひとりがどのような課題にぶつかっているのか、どのような学びを得ているのかを共有しながら、共に成長していくという思いで臨んでいます。」と江頭さん。
平成23年に新卒で入職し、産休・育休の3年を含めて14年間勤務する都築智美さんは現在、リーダー研修を受講しています。
「リーダー研修は勉強にもなりますし、責任感やモチベーションにもつながっています。」と話す都築さん。「例えば入居者の方とゆっくり話をしたい、レクリエーションを自分で企画したいなど、目指す介護も適性もそれぞれ異なります。そういう一人ひとりが描く“やりたい介護”や“理想の介護”を否定することなく、幅広い世代がそれぞれの個性や経験を発揮できるチームでありたい。それこそが、チーム全員が楽しく働き続けられるベースにもなりますし、ひいては質の高いサービスの提供にもつながるのだと思います。」と話してくださいました。
地域と職員から選ばれる施設を目指して
東加茂福祉会では、平成25年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法を受け、早々に定年を満65歳に引き上げると共に、定年退職後も就労を希望する方は満70歳まで継続雇用することを決定。さらにその後は「本人の体力に限界を感じるまで、上限なく就労可能」という運用にしました。
こうした多角的な取り組みが実を結び、東加茂福祉会では現在、20代から80代までの幅広い世代が勤務。離職者の減少、産休・育休明けの復職や育児・介護を終えた人の再雇用などが増えているそうです。
今後の課題について江頭さんは「入居者の方、地域の方から選ばれる施設であることは大前提です。その上で、現在の職員、そしてこれから仲間となる方も含めて、職員から選ばれる施設になるための発信力が大事。」と話します。
今、SNSなどを通じて施設の様子や職員のリアルな声を発信していることもその一つ。「こうした取り組みが功を奏し、3年連続新卒者の採用を実現、中途採用への応募者も年々増加するなど、採用への手応えを感じています。」と柴田さん。
渡邉さんは「発信力を高める一環として、地域に開かれた施設を目指したい。」とも話します。現在、石野の里にある「地域交流ホール」を定期的に開放して憩いの場として有効活用するなど、地域との接点を増やしているそうです。さらに江頭さんは「小学生や若い世代との交流の場を増やすことで、福祉のことや介護という仕事のことを知るきっかけになればうれしい。」と期待を込めます。
地域に愛される施設であることは、働く人々の誇りや意欲を生み、世代を超えて長く働き続けたいと思える職場環境づくりの土台となっています。その結果が、中高齢者の活躍という成果として表れているのです。
DATA
社会福祉法人 東加茂福祉会(愛知県豊田市岩神町仲田38番地5)
地域福祉の根幹を担うため、地元行政、JAあいち豊田、JA愛知厚生連の協力のもと、平成14年に社会福祉法人を設立。平成16年、本部機能も備える「特別養護老人ホーム 巴の里」を開設。平成26年には2施設目となる「特別養護老人ホーム 石野の里」が誕生しました。「個人の尊厳を守り、豊かな自然に囲まれたこの地域で、今日1日を大切にした一人ひとりの生活実践の空間をともに創る」という理念のもと、心の通うケアを行っています。
巴の里
石野の里
(令和7年12月取材)
