あいちの労働あれこれ


シニア世代の持つ技術力を唯一無二の製品へ

 国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)となる超高齢化社会を迎えることで雇用や医療、福祉など、さまざまな課題がクローズアップされる2025年問題。今、高齢者が長く働ける環境整備は、社会の大きな課題の一つです。
 こうした中、『西島株式会社』(豊橋市)は創業時から定年がなく、シニア世代が持つ高い技術力とノウハウを企業の競争力を高める付加価値として活用しています。
 そこで、社長の西島豊さんに、高齢者雇用に対する考えや取り組みについてお聞きしました。


ベテラン社員は企業活力の支柱



 自動車やバイク、建築物などに関わる産業用部品を製造するための専用工作機械メーカーとして国内外から高い評価を受ける『西島株式会社』。定年がないため、自らが退職時期を決める『引退制』という独自の制度を設けている企業として、注目を集めています。 
 引退制とは、週5日、1日8時間勤務を基本的な条件として、引退(退職)するまでは正社員として雇用を続けるという制度です。この制度の背景にあるのは、ベテラン社員の経験値は企業の成長に欠かせないという考え方です。




 西島社長は、「常にオンリーワンのモノづくりに取り組む中、ベテラン社員がこれまで培ってきた技術力、ノウハウは製品の競争力を高めるうえで不可欠。会社に貢献する、働くということに年齢は関係ありません。」と話していました。

社長 西島 豊さん



 そしてシニア世代の活躍は、技術の蓄積・継承にとどまらず、若手の目指す目標となり、企業の活力向上につながっているとのことです。その効果を生み出したのは、若手もベテランも同じ労働条件のもとで働く職場環境。ベテランだから出勤日を減らす、勤務時間を減らすという考えはないそうです。「若手からみれば自分より技術の高いベテランが同じ条件の中で働いているからこそ、よい手本となり、目標になり、そこに尊敬の念が生まれます。」と西島社長。お互いが認め合える関係性があるからこそ、若手はベテランから刺激を受け、謙虚に学び、技術を高めようとする。そして、年齢による退職がないから常に成長しようとする。こうした日頃の積み重ねが重要とのことでした。
 取材日に工場内を見学した際も若手と一緒に70代、80代のベテランが現場の第一線で働いていました。最高齢81歳の社員は「仕事を通じて会社や社会に貢献できることがやりがいになっています。元気である限り、働き続けたい。」と語っています。その言葉の中には、今も現場で働く充実感とともに、まだまだ若手には負けないという仕事に対するプライドが伝わってきました。




いきいきと働く最高齢社員


役割の明確化でモチベーションアップ

 ベテラン社員が今も現場で精力的に仕事に取り組む西島株式会社。社員の働く意欲を支えているのは、役割を明確化し、会社への貢献度を適切に評価する仕組みです。





 西島社長は、「それぞれの世代に役割があり、その役割を循環させていくことが大切。」と語っていました。若手は複数の業務をこなすことができる多能工として幅広く技術を習得し、経験を積んで管理職へ。やがて管理職を退いたベテランは技術を極めて匠となり、そしてノウハウを後輩へ伝えていく。こうした循環の企業文化を育てるために取り組んできたことが役割の明確化です。全社員を対象に職場における役割、今後求められるスキル、そして自己実現に向けた未来予想スキルマップ(この先獲得したいスキルを一覧化した表)を一人一人が文書化し共有することを進めました。その中で、成長を目指し努力する方向性を打ち出し、その成長過程や会社への貢献度を適正に評価。役職を退いたあとも評価が給与に反映されるため「次はこの製品開発に挑みたい。」と意欲的な目標を掲げるシニア世代が多く、社員のモチベーション向上、そして企業の活性化にもつながっているそうです。
 また、長年の活躍を感謝する表彰制度も社員のモチベーションの一つです。一般的な25年までの勤続表彰に加え、独自で30年、50年、60年の勤続表彰を実施。令和6年は勤続50年表彰を3人、勤続60年表彰を1人が受けました。若手はその姿に自分の将来を重ね、技術とノウハウをさらに磨く。表彰制度は、ベテランだけでなく、中堅・若手の目標にもなっているとのことです。



勤続表彰を受けた社員のみなさんと西島社長


長く働いてもらうための環境づくり

 社員に長期間にわたって働いてもらうために取り組んでいることの一つが手厚い福利厚生です。表彰制度のほかにも社員旅行や家族会など定期的にイベントを開催しています。社員が元気で働けるのも家族の支えがあってこそという考えのもと、感謝の気持ちを伝える機会として行っているそうです。
 また、『健康寿命』というワードが注目される中、独自の健康サポートを行っています。その一つが管理栄養士の考えた献立を安価で提供する昼食弁当。ご飯と味噌汁は、おかわりが自由です。
 取材当日のメニューは長年受け継がれてきた味にこだわったというカレー。社長をはじめ、若手やベテラン全員が社員食堂で昼食をとります。年齢や所属部署も関係なく食事を楽しみながら、コミュニケーションを深めていて、シニア世代も若手に負けず、食欲旺盛な姿が印象的でした。







社員食堂名物のカレー

ベテランと若手が和気あいあいとした雰囲気で昼食をとっている


 また、毎朝社内を回り、全社員一人一人とコミュニケーションを取ることが西島社長の日課。社員に寄り添い、社員の変化に気づくために続けています。いつもと様子の違う社員とは話し合う時間を設け、柔軟に職場環境改善に反映させているそうです。働きがいを高めるとともに働きやすい環境づくりを進めることも会社の大事な役割とのことでした。
 最後に西島社長が大切にしている考えについて語ってくださいました。
 「結局、製造業は人です。企業の進化は人の進化。引退制を続けているのも、年齢に関係なく人は成長できると考えているからです。そして、会社は成長できる環境、働きがいのある環境を整えること。会社が社員に尽くすから、社員が期待に応えてくれる。これからもそうした会社でありたいと思っています。」
 シニア世代が働きがいを生きがいにし、企業の成長を牽引する礎として機能する西島株式会社。そのハツラツとしたベテラン社員の姿こそ、これからの企業の目指すべき指標の一つなのかもしれません。


DATA

西島株式会社(愛知県豊橋市石巻西川町字大原12)



創業は大正13年。専用工作機械メーカーとして、設計から製造、組立試運転までの全工程を内製化した自社一貫生産体制を確立。
経営理念は『一流の製品は一流の人格から【一生元気、一生現役】』。
社員数140人、平均年齢44歳(令和7年2月現在)。
グローバルパートナーとして海外に4拠点を設置。
愛知ブランド企業、モノづくりブランドNAGOYA顕彰企業、地域未来牽引企業(経済産業省)に認定。
第11回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員会特別賞を受賞。

西島株式会社ホームページ