メンタル不調による休職対応の実務と予防策 連載第1回
近年、メンタルヘルス不調により従業員の方が休職に至るケースが増えています。メンタルヘルス不調は一般的なケガとは異なり、「いつ頃回復するか」がなかなか見えにくく、会社担当者が「休みが続いているが、この先どう対応してよいかわからない」といったケースが多々見受けられます。
そこで今回から4回にわたり、職場でのメンタルヘルス不調による従業員の休職・復職に関して「会社担当者がどう対応するべきか」を中心に実践的な視点で取り上げて参ります。
第1回の今回はまずは「予防」について取り上げ、メンタルヘルス不調による休職を発生させないための工夫についてお届けします。第2回は実際に「休職者が発生」した際の対応とお伝えポイント、第3回は戻ってくるための「復職」についての段取りと注意すべき点、そして最後の第4回は令和10年4月から施行が決まっている50人未満のストレスチェックの対応方法という内容を取り上げて参ります。
4回の続き物ですので、ぜひすべての回の内容をご確認いただき、職場での対応に活かしていただきたいと思います。
1.職場におけるメンタルヘルスの現状と対策の必要性
近年、職場のメンタルヘルス対策が叫ばれるようになっています。厚生労働省(以下、厚労省)が行った「令和7年労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%です。また、厚労省サイト「世界メンタルヘルスデーJAPAN 2026」では、「生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかる」との記述もあり、少子高齢化の影響で人材確保が一段と厳しくなっている状況下において、決して軽視できる問題ではありません。
ではメンタルヘルス対策はどのように考えればよいのでしょうか。上記サイトでは「気分が落ち込んだり、ストレスが続いてしまうとメンタルヘルス不調の原因になる」とありますので、「ストレスを減らす」ことが重要になってくることがわかります。
このストレスについては、図1(出典 職場における心の健康づくり:厚労省)のように職業生活において強いストレスを感じている人の割合が82%を超えており、メンタルヘルス対策は「本人の問題」ではなく「会社組織としての問題」として考える必要があります。もともと事業主には雇用する従業員に対する安全配慮義務が課されていますので、その意味でも会社は従業員のメンタルヘルス対策を推進する必要があります。
2.メンタルヘルス指針の存在
厚労省ではメンタルヘルスに関して企業が採るべき指針として「労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年3月策定、平成27年11月30日改正)」を定めています。この指針では、以下の「三段階での予防」と「4つのケア」を効果的に推進することとされています。
三段階での予防
- メンタルヘルス不調を未然に防止する(一次予防)
- メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う(二次予防)
- メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰等の支援を行う(三次予防)
4つのケア
A【セルフケア】
セルフケアとは「労働者が自分自身でメンタルヘルスの予防を図ること」ですが、事業主には労働者がセルフケアできるように以下の支援をすることが重要とされています。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
・ストレスへの対処
なお、管理監督者自身も自分では気づかずにストレスを抱えていることが考えられますので、このセルフケアを受ける対象者は「管理監督者も含める」とした方がよいでしょう。
B【ラインによるケア】
ラインによるケアとは、労働者と普段から職場で関わっている上司等が、労働者の行動や会話、表情、服装などから「いつもと違う」ということを敏感に読み取り、メンタルヘルス不調の早期発見、相談対応、職場復帰支援等を行うもので、主に以下となります。
・職場環境等の把握と改善
・労働者からの相談対応
・職場復帰における支援 等
C【事業場内産業保健スタッフ等によるケア】
事業場内産業保健スタッフ等とは、具体的には「産業医」、「衛生管理者」、「保健師」、「心の健康づくり専門スタッフ」、「人事労務管理スタッフ」、「メンタルヘルス推進担当者」の方々を指し、上記A、Bが効果的に行われるように支援を行うと共に、以下の中心的な役割を担うこととされています。
・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
・個人の健康情報の取扱い
・職場復帰における支援 等
D【事業場外資源によるケア】
事業場外として、都道府県産業保健総合支援センターや医療機関などから、下記のような支援も考えられるとしています。
・情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
・ネットワークの形成
・職場復帰における支援 等
これらを踏まえて具体的対応策を決めておくと、会社として行うべき対応策の漏れが少なくなると思われます。
3.具体的対策「メンタルヘルス指針からの反映」
前段で「メンタルヘルス指針」について触れましたので、ここからいよいよ具体的対策について考えていきましょう。今回の予防編としては三段階での予防から「メンタルヘルス不調を未然に防止する(一次予防)」と「メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う(二次予防)」のうちの初期段階、4つのケアからは「セルフケア」と「ラインケア」に含まれるものを中心として取り上げます。
1 セルフケアのための教育
まず、メンタルヘルスがどういうものか、原因となるストレスは何なのかについて労働者本人に理解してもらうことが必要です。具体的には以下のような事項について教育、研修を行うと良いでしょう。
メンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは身体の健康ではなく、こころの健康状態を意味します。身体が軽いとか、力が湧いてくるといった感覚と同じように、こころが軽い、穏やかな気持ち、やる気が湧いてくるような気持ちの時は、こころが健康といえるでしょう。
しかし誰でも気持ちが沈んだり、落ち込んだりすることがあります。職場や家庭生活の中でストレスに感じることも少なくないでしょう。気分の抑うつや、ストレスを感じることはある意味自然なことですが、そのような気分やストレス状態が続いてしまうと、こころの調子を崩してしまう原因にもなります。そうならないために以下の例を参考にしつつ、早めにストレスに気づくようにしましょう。
ストレスに気づこう
ストレスは、 さまざまな出来事がきっかけとなって引き起こされます。自分の身のまわりにストレス要因がないか、気がつかないうちにストレスに対する反応が出ていないか、以下のチェックをしてみましょう。
【職場で】
仕事の質・量の変化:長時間労働や人事異動、トラブルの発生等
役割・地位の変化:昇進、昇格、配置転換、出向等
人間関係のトラブル:上司や部下との対立、セクハラ、パワハラ等
重い責任の発生:仕事上の事故や失敗による
【職場以外で】
自分の出来事:病気や家庭不和、人とのトラブル、事故や災害等
自分以外の出来事:家族・親族・友人の死や病気・非行等
金銭問題:多額の借金・ローン、収入源等
【ストレスチェック制度で】
ストレスチェックを受験された方は、その結果を必ず確認してください。気づかずにストレスを抱えているかもしれません。
※ストレスチェック制度は第4回で扱います。
ストレスと上手に付き合う
自分に合ったリラクゼーション法を身につけておくことは、あなたの強い武器となります。
【例】
・ストレッチング
・親しい人たちと交流する時間を作る
・笑いのすすめ
・仕事に関係のない趣味を持つ
・心身をリフレッシュさせる
規則正しい生活
規則正しい生活を心がけましょう。食事と睡眠を充分に取り、適度な運動習慣も身につけましょう。
こころの調子を崩した場合
もしも、こころの調子を崩してしまった場合は、自分一人で抱え込まずに家族や友人、頼れる会社の上司など、身近な人に相談しましょう。身近な人には相談しづらい場合や、相談できる人が周りにいない場合は、会社の相談窓口や行政のこころの相談窓口などに、あなたの不安やつらい気持ちを必ず伝えてください。
なお、会社で相談窓口を設置する場合は、以下の様に社内に周知するとよいでしょう。
【従業員への周知例】
当社での相談窓口は以下になります。お気軽にご相談ください。
会社の相談窓口 部署○○部 担当者○○○○ 内線○○○
出典 以下より抜粋の上、著者編集
こころの健康気づきのヒント集(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/000561002.pdf
世界メンタルヘルスデーJAPAN2026(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/kokoro/mental_health_day/amh.html
2 ラインケアのための教育
ラインケアとは、労働者と普段から職場で関わっている上司等の管理者が、労働者の行動や会話、表情、服装などから「いつもと違う」ということを敏感に読み取り、メンタルヘルス不調の早期発見、相談対応を行うこととされています。したがって、上司等に対するラインケア教育が必要となりますが、その前に上司自身がメンタルヘルス不調の原因とならないようにしておかなければなりません。具体的には上司に対するパワハラ教育です。
<A パワハラ教育>
図2の「職場における強いストレス」の調査結果によれば、「仕事の失敗、責任の発生」がトップで、「仕事の量」、「対人関係(セクハラ、パワハラ含む)」と続いています。この原因として疑われるのが上司の存在だからです。「仕事を失敗した時誰が1番怒るか」、「仕事量の配分を決めるのは誰か」、「職場の人間関係で誰を1番の負担と考えるか」といったことを想像されると分かりやすいと思います。
そもそもパワハラの定義ですが、パワハラは職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
の①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。この「優越的な関係」は上司と部下との関係において発生しやすいわけですから、まず上司に対して以下のパワハラ教育をしておくべきでしょう。
【パワハラ6類型】
| 類型 | 代表例 | 該当と考えられる例 |
| ①身体的な攻撃 | 暴行、傷害 | ・殴打、足蹴りを行う ・相手に物を投げつける |
| ②精神的な攻撃 | 脅迫、名誉棄損、侮辱、暴言 |
・人格を否定するような言動を行う ・長時間または大声での叱責 ・相手の能力を否定し、罵倒する
|
| ③人間関係からの切り離し | 隔離、仲間外れ、無視 | ・仕事を外し別室に隔離、自宅研修させる ・集団で無視し、職場で孤立させる |
| ④過大な要求 | 業務上明らかに不要なことや 遂行不可能なことの強制・仕事の妨害 |
・無理な目標を課し、未達を厳しく叱責 ・勤務に関係ない作業や雑用を命ずる |
| ⑤過少な要求 | 業務上の合理性なく、能力や経験と かけ離れた程度の低い仕事を命じる ことや仕事を与えない |
・退職させるため、誰でも遂行可能な業務を 行わせる ・嫌がらせで仕事を与えない
|
| ⑥個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入る | ・監視、機微な個人情報を暴露 |
【意識した指導の在り方】
・自分の感情に任せた言動はしない⇒一呼吸おいて感情をコントロール
・指導は「攻撃」ではなく「必要事項を無理なく達成させること」
・相手を見て最適な接し方を考える
※事例演習等でパワハラの具体例等を学んでもらうことも効果があります。
<B メンタルヘルス教育>
上記Aを経て、ラインケアとして上司である管理者に対して以下の取り組みが重要であることを学んでいただきます。
部下の「変化」についての把握
メンタルヘルス不調になった、または、なりかかっている場合、いつもと違う行動が出てきますので、上司はその違いに気づくことが必要です。
<いつもと違う例>
・遅刻や欠勤が増えた ・仕事をミスするようになった ・口数が少なくなった
・表情が暗くなった ・服装が乱れるようになった ・急に職場で泣き出すことがある 等
相談対応
部下からの相談に応えることが必要ですが、そのためには上司が普段から「話しかけられやすい」環境とすることも必要です。フキハラといって上司がいつも不機嫌な態度や表情を作っているようでは、相談したくてもできません。むしろ、上司の方から気になった部下には声をかけることが必要です。
<相談時の注意点>
・傾聴を心掛ける(部下の話を遮らない)
・仕事や人間関係での悩みや問題点がないかを尋ねる
・(必要があれば)会社の相談窓口を案内したり、連携を取ったりして対応する
また、指針では特に触れられていませんが、会社の制度として「1on1※」を取り入れている会社であれば、1on1の中で上記のことに配慮した会話をすることも有効であると考えられます。1on1は継続的に続けていくものである上に、話す内容は原則として「テーマは問わない」としていますので、普段の1on1からメンタルヘルスの察知や早期解決につながることも期待できます。
※部下の成長や改善を促すことを目的として、定期的に上司と部下がマンツーマンで行う対話型のミーティングのこと
3 会社の体制整備
上記の「セルフケア」、「ラインケア」を効果的に機能させるためには、会社の体制整備も必要になります。具体的には以下の内容の整備等です。
<A 心の健康づくり計画>
メンタルヘルスケアの推進については、会社が労働者の意見を聴きつつ、事業場の実態に即した取組みを行うことが必要とされています。そのために指針では「心の健康づくり計画」を以下の事項を盛り込みながら作成することとしています。
① 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
② 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
③ 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
④ メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
⑤ 労働者の健康情報の保護に関すること
⑥ 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
⑦ その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
出典 職場における心の健康づくり【指針:4】厚労省
この計画が決まったら従業員向けに周知するとともに、ホームページ等で社外にも公表し、この内容に沿ってメンタルヘルス対策を進めていくことになります。
<B 事業場での体制整備>
会社の中でメンタルヘルス問題を扱うのに適している機関は、「衛生委員会(安全衛生委員会)※」です。衛生委員会では産業医、産業保健スタッフ、衛生管理者、会社代表、労働者代表等が参加しますので、メンタルヘルスに罹患してしまった従業員の対応や未然防止、従業員教育、職場の在り方等についての議論、対策、企画、立案をするのに適しています。
この衛生委員会のテーマに「長時間労働対策」、「定期健康診断」等を含めておけば、メンタルヘルス不調の一因である長時間労働についても、どこの職場でどれぐらい行っているか、また、定期健康診断の結果がどうであったか等を産業医等の専門家としての見解を聞きながら進めることが可能です。
※「衛生委員会(安全衛生委員会)」は、従業員数50人以上の事業場に設置が義務づけられています。そのため、50人未満の事業場では通常設置されず、職場環境等について話し合われる会議も開催されません。
<中小事業場での対応をどうするか>
上記の衛生委員会については事業場の規模の問題があります。それは労働安全衛生法では衛生委員会の開催も産業医、衛生管理者等も選任要件がない為、事実上、このままでの対応はできません。これらの解決方法としては任意の「職場懇談会」等の設置が考えられます。職場懇談会を定期的に開催し、その中でメンタルヘルス対策として①【セルフケアのための教育】、②【ラインケアのための教育】などを扱うことにより、規模の小さいことによる放置状態を回避することが可能になります。
なお、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、安全衛生推進者を選任し、労働者の安全や健康確保などに係わる業務を担当させなければなりません(安全管理者の選任対象外の業種では安全衛生推進者に代わり衛生推進者を選任し、衛生にかかる業務を担当させます)。
| 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、 電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、 家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業 |
安全衛生推進者 |
| 上記以外の事業場 | 衛生推進者 |
したがって、「衛生委員会(安全衛生委員会)」の設置義務のない事業場では、衛生推進者または安全衛生推進者を中心として職場懇談会を開催するとよいでしょう。
<C 相談窓口の設置>
会社のメンタルヘルス対策として欠かせない存在が「相談窓口の設置」になります。メンタルヘルス不調も「こころの病気」ですので、病気になって会社を休むより前に「早めに相談し、早めに手当てする」に越したことはありません。手当が遅くなると、こころの病気でも傷が深くなり治るのが遅くなるということですので、ぜひ会社でも窓口を設けるようにしましょう。
この場合、やらなければならないことが2つあります。1つは相談窓口担当者への教育です。窓口担当者は相談者が来た時に「適切に相談を受け」、「(解決に向けて)適切なアドバイス」を行わなければなりません。そのためには「メンタルヘルスの知識」、「相談時の対応方法、記録」、「対策アドバイス」、「緊急時の連絡方法」等をあらかじめ教育しておく必要があります。小規模事業場の場合は、他のハラスメント相談窓口担当者に兼務させるのも実用的です。
そしてもう一つは従業員への周知です。この周知の中に「相談したことによる一切の不利益はない」ということも明記しておかないと、従業員の方は相談に二の足を踏むことになりかねません。
まとめ
今回は第1回として従業員のメンタルヘルス不調対応の「予防編」を取り上げました。次回は会社担当者の悩みが多い「休職者」について取り上げますので、ぜひともご確認ください。
