【事業者向け】労務管理WEB講座



 保険・年金Q&A 第2回は、社会保険の加入・脱退のタイミングや社会保険料の徴収について、間違えやすいポイントを解説してまいります。





 今春、新卒で今の会社に入社し、営業部門に配属されたのですが、10月から人事部に異動になるという内示を受けました。最初は、社会保険や労働保険の手続、社内広報などを担当するそうです。そして、慣れてきたら健康診断の手配や管理など労働安全衛生の業務、さらに採用や教育などにも、関わっていくことになるという説明を受けています。
 弊社は10年余り前に設立された会社で、社長の他は、取締役と正社員だけですし、あと3年は定年を迎える社員もいないので、手続業務は比較的単純だと言われて安心していました。
 ところが異動の直前になって、社会保険の加入・脱退は、入社・退職だけではないとか、社会保険料の徴収について、先輩が失敗したなどといった話も耳に入ってきました。

 社会保険の加入・脱退のタイミングや社会保険料の徴収について、間違えやすいポイントを教えていただけますでしょうか。





手続のタイミングと保険料の徴収に注意


 会社での社会保険の手続は、入社や退職といった人事イベントに伴って行われるのが一般的です。しかし、実務上はそれだけではなく、「同月得喪」や「同日得喪」といった特殊なケースにも注意が必要です。これらのケースでは、手続のタイミングや社会保険料の徴収について、通常とは異なる対応が求められます。



社会保険の加入・脱退の基本

 社会保険に加入すること、正確には被保険者となることを「資格取得」といいます。
 社会保険が適用される会社に入社すると、その日に被保険者となって、当日から健康保険で治療が受けられるのが原則です。入社日に資格取得するということです。ただし、契約上の勤務時間が短いなど、資格取得の要件を満たしていない場合には、要件を満たすようになるまでは資格取得しません。

 反対に、社会保険から脱退すること、正確には被保険者ではなくなることを「資格喪失」といいます。
 会社を辞めるとき、退職の当日までは健康保険が利用できるのですが、翌日からは利用できなくなります。退職日の翌日に資格喪失するということです。また、契約上の勤務時間が短縮されるなど、資格取得の要件を満たさなくなった場合にも、資格を喪失することになります。




 このように社会保険は、原則として「日」単位で資格の取得・喪失が行われます。たとえば、9月5日に入社した場合、加入要件を満たしていれば、その日に資格取得します。一方、退職した場合は「退職日の翌日」が資格喪失日となります。つまり、9月25日付で退職した場合、資格喪失日は9月26日となります。


出典:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html


社会保険料徴収の原則


 ところが、社会保険料は「月」単位で発生し、日割計算はありません。
 また、原則として、資格喪失日の属する月の前月の分までが徴収されます。つまり、月末に退職するとその月の分の保険料は徴収されますが、月末以外の退職であれば、その月の分の保険料は徴収されません。
 しかし、1日でも在籍していればその月の保険料が発生するため、「同月得喪」という例外があります。



「同月得喪」という例外


 「同月得喪」とは、ある月に社会保険の資格を取得し、同じ月のうちに資格を喪失することを指します。たとえば、9月5日に入社して資格取得し、9月25日に退職して9月26日に資格喪失した場合、資格取得日と喪失日がともに9月中であるため「同月得喪」となります。この場合、健康保険料と厚生年金保険料とで、その取扱いに違いがあります。
 健康保険料は、同月得喪であっても、その月の保険料は必ず発生し、給与から控除して納付する必要があります。
 一方で、厚生年金保険料は、原則として発生しますが、同月内に別の年金制度に加入した場合、先に喪失した会社での保険料は、例外的に発生しないことになります。


 こうして、同月得喪で厚生年金保険料が一旦徴収された後、同月内に別の年金制度に加入していたことが確認されると、年金事務所から還付通知が届きます。会社はその通知に基づき、資格喪失者に還付を行う必要があります。
 還付が発生した場合、源泉徴収票の内容も修正が必要になることがあります。特に年末調整後に発覚した場合は、再発行の手間がかかるため、早期の確認が重要です。
 社会保険料の控除の有無は、給与計算に直結します。特に同月得喪の場合、控除するか否かの判断を誤ると、後の修正対応に大きな手間がかかります。



混同しやすい「同日得喪」

 「同月得喪」と一文字違いで混同しやすい用語に「同日得喪」があります。「同月得喪」が保険料発生についての特例なのに対して、「同日得喪」は手続についての特例です。
 「同日得喪」は、資格を喪失したその日に、再び資格を取得するケースを指します。典型的な例は、60歳以上の従業員が一度定年退職し、同日に再雇用される場合です。この場合、雇用契約が一度終了しているため、形式上は資格喪失と取得の両方の手続を行う必要があります。事務処理が煩雑になるため、事前の準備と確認が重要です。
 定年退職とともに同じ会社で再雇用された場合には、賃金が減額されることも多いでしょう。賃金が減額されたのに、しばらくの間、定年前と同じ保険料を支払うのでは、経済的な負担が大きくなってしまいます。そこで、60歳から64歳までの老齢厚生年金受給権者が再雇用となった場合などには、退職の翌月分から保険料を安くできるよう、特別に「同日得喪」という手続があるのです。



まとめ


 会社の人事・労務担当者は、以上の制度を正しく理解し、適切な対応を行うことで、従業員とのトラブルを未然に防ぎ、法令遵守を徹底することが求められます。
 さて、次回のテーマは「どうしよう?雇用保険の資格取得漏れ、資格喪失漏れ!」です。
 どうして起こるのか、漏れるとどうなるのか、どうすれば良いのかというお話もさせていただきます。