キャリアよもやま講座 連載第4回
この連載もいよいよ最終回です。今回は、いままでとは少し傾向が違う法律の話となります。労働法について、就職や転職をキーワードとした視点で、「学べば損をしない」「知っておくと得する」テーマについて、いくつかを厳選して取り上げていきます。法律の話なので少し小難しくなるところもありますが、できるだけ分かりやすくしながら、いつものようによもやま的にお話をしていきます。お付き合いの程、よろしくお願いいたします。
1. 学んでみて欲しい労働法とは何か
労働法とはどのようなものなのでしょうか。会社などで働けば、皆さんが身近に接することになる労働基準法をはじめ、工場などでの安全対策や心の健康についてのメンタルチェック、定期健康診断などで関係してくる労働安全衛生法。子育て世代が大きく関わることになる育児介護休業法や、セクハラ問題の相談などでよく耳にする男女雇用機会均等法。そして高校などで習う団結権・団体交渉権・争議権といった労働基本権のルールを定め、労働者団結のバックボーンとなる労働組合法や、就活ルールなども守備範囲とされている職業安定法など、労働法とは労働関連の様々な法律の総称です。そして拙著「キャリア論と労働関連法24講」(三恵社刊 令和6年)から引用した下の図のような法律で構成されています。
もっとも、労働法は、働いている方であっても、詳しく知っている方がおられる反面、名前やおおよそ程度の知り方に留まっている方も多いようです。また、これから社会に出ていく学生の皆さんにとっては、大学の法学部などで体系的に学ぶ機会があればある程度は詳しいはずですが、そうではない場合はあまり学ぶ機会が設けられていないこともあり、意外にも「名前が知られている割には詳しくは知らない」という法律かもしれません。働く人たちを保護する、大切過ぎるほど大切な法律なのですが、馴染みがイマイチのようです。
労働法は、「労働者を守ってくれる法律」であり、「権利の上に眠る者は保護に値せず」の法格言の通り、知っておかないと損をしてしまいます。とりわけ学校を卒業して就職するような皆さんは、労働法という鎧があるのに紙の服を着て、厳しい矢が飛んでくる社会に出るようなものではないでしょうか。でも、少し驚かせてしまいましたね。まあ、とにかく労働法を学ぶことは価値あることです。
ここでは紙面の関係で詳しくはご説明できませんが、これを機会に厚生労働省のホームページに掲載されている「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」や放送大学の「雇用社会と法」講座などで学んでいただければと思います。
【ご参考リンク】
厚生労働省「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouzenpan/roudouhou/index.html
放送大学「雇用社会と法(’21)」
https://bangumi.ouj.ac.jp/v4/bslife/detail/15393451.html
2. 求人票から読み解く良さそうな企業
大学の就職部やキャリアセンター、あるいはハローワーク(公共職業安定所)で目にすることができる求人票は、職業安定法によりその記載事項も含め法定されています。この求人票から労働条件として有利な制度を知ることができます。社会保険労務士などの専門家のうちでは有名どころでもある、「年次有給休暇の前倒し取得制度(法定の半年後ではなく入社時から取得できます)」、「給与支払い日が休日の場合の前倒し支給」や「ボーナス支給基準日の緩和条件(4月末日までの実績に対して6月に賞与が支給される場合、4月末日で退職しても支給対象となります)」、あるいは「法定休日の週2日設定導入(割増賃金率35%以上の適用対象となる法定休日を多く設定)」などがあります。皆さんにとっては、自らのキャリアを活かせる企業が複数あり、どちらに就職するかを迷っているような場合には、このような条件の会社を選んだ方がよさそうです。
ここではあえて、レアケースな「日給月給制と完全月給制」、「社会保険料の事業主の任意負担」について取りあげて説明することにします。
日給月給制と完全月給制について
日給月給制は、実際の労働日数に関係なく、予め定められた月額給与が原則として支払われますが、年次有給休暇を使い果たし欠勤したような場合には、ノーワーク・ノーペイの原則(働かない分は賃金を支払わないとする考え方)が適用され、その分が日割り計算で給与カットされます。一方の完全月給制では、予め定められた一定の月額給与が、実際に労働したか否かを問わず完全に支払われます。戦前から続いているような比較的古い企業や労働組合のある大企業がこの制度を導入しているようです。
完全月給制の企業ならば年次有給休暇がなくなって休んで欠勤となったとしても、給与は丸々支払われることになります。退職時に年次有給休暇がゼロのような場合では、退職日まで行かなくても月額給与は支払われます。求人票に「完全月給制」と記載されていればこのようなメリットを受けることができます。
社会保険料の事業主の任意負担について
正社員になると例外的な場合を除き、所得税や市民税などとともに、社会保険料も源泉徴収という制度により、給与が支払われる前に天引きされています。社会保険制度は、病気やケガ、老齢、失業といったリスクに対して保険方式により備え、社会全体で支えていくという考え方に基づくものです。社会保険料のうち、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、事業主である企業と従業員(被保険者)が半分ずつ負担します。なお、法律により、雇用保険料は事業主負担が多く、労災保険料は全額が事業主負担となっています。
この社会保険料の企業負担を事業主負担率と呼んでいますが、大企業や業界団体が作っている健康保険組合のような場合は、その規約により事業主の負担割合を増やすことができます。他にも、事業主が福利厚生の一環として、任意でこの負担分を超える部分を給付金などとして支給してくれる企業があるのです。これは手取りが増えて実質的な収入増となるので、地味ながらもお得な制度です。あまり多くの企業は採用していませんが、求人票には「社会保険料の事業主負担分増し」などの記載となっています。
3. 認定マークで知る安全安心な企業
厚生労働省や経済産業省は、企業による特定分野の改善等への取り組みや労働環境の質の向上、健康的で安全安心な環境整備を促しており、その取り組みを評価していく制度が、ここで紹介する認定マークです。働いている人達にはこの認定マークで見える化を図り、企業に対しては社会的評価の期待を高めて取り組みを促していく狙いがあります。就職活動をする際の企業選びにも、これらを参考にしていくメリットがあります。いくつかあるうちで、くるみん認定制度、安全衛生優良企業公表制度、そして健康経営優良法人認定制度について説明します。
くるみん認定制度
次世代育成支援対策法により厚生労働省が定めています。同法は急速な少子化の進行と、家庭及び社会環境の変化に応じた次世代の育成を目的として制定されています。一定規模以上の企業は、次世代育成対策の行動計画を策定し、その計画目標が達成され、基準を満たしていれば申請により、厚生労働大臣が「子育てサポート企業」の証として「くるみんマーク」を付与しています。他にも、より高いレベルをクリアした企業に付与される「プラチナくるみんマーク」や、最近では「トライくるみんマーク」もできました。子育て世代の再就職などの就活基準として何かしらに役立つこと間違いなしと思います。
安全衛生優良企業公表制度
労働安全衛生法に基づき、厚生労働省が定めています。この制度は、労働安全衛生に積極的な取り組みをしている企業を認定するもので、安全安心に働ける環境の整備が図られています。認定要件は、過去3年間、労働安全衛生法関連の違反がないこと、労働者の健康保持増進対策、メンタルヘルス対策、過重労働防止対策、安全管理などの基準をしっかりと満たしている必要があります。認定されこのマークを取得している企業は、労働安全や労働衛生に対する意識が高い企業とされています。
健康経営優良法人認定制度
優良な健康経営を実践している大企業や中小企業への顕彰制度で、経済産業省が定めています。健康経営とは、企業が社員の健康管理や健康増進に熱心に取り組んでいる会社経営を意味しています。大規模法人部門と中小規模法人部門の領域があります。認定されるには、「見える化」を前提として「健康経営の実践に向けた土台づくりとワークエンゲージメント(メンタルヘルス対策の一環)」や「従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策」など結構厳しい基準を満たしていなければなりません。とりわけ大規模法人の上位500法人は「ホワイト500」として希少価値ある認定とされています。もっとも普通の認定でも、相当に評価できるものなので、こちらでも企業選びの判断基準として十分意義あるものです。
まとめ
今回は筆者の専門分野の労働法なので、お話ししたいことは山ほどあったのですが、「求人票と認定マーク」に的を絞って、良い会社選びのコツを説明してみました。知っておくと良い事がありそうだと思われたことでしょう。これを機会にぜひ労働法に興味を持っていただければ幸いです。「よもやま講座」の連載はこれにておしまいです。最後までお読みいただきありがとうございました。
