橋梁の溶接工
壮大な橋梁の細部に宿る 繊細な職人技
橋梁の溶接工
新美 典昭(にいみ みちあき)さん
日本車輌製造株式会社 衣浦製作所 輸機・インフラ本部
インフラ統括部 製造課 組立工場 工長
■令和6年度愛知県優秀技能者表彰※(末尾参照) 受賞
新幹線をはじめとした鉄道車両、街づくりに不可欠な建設機械、物流を支える輸送用機器や橋梁の製造など、社会や経済活動を支えるインフラの根幹を担う日本車輌製造株式会社(以下、日本車両)。中でも、大型重量品を搬送する車両や各種高圧ガスを輸送するタンクローリーなどの特殊輸送用機器と、橋梁を中心とした各種鋼構造物の製造を行うのが、半田市にある衣浦製作所です。
今回は、鋼構造物を製造する溶接工として、入社以来32年にわたり橋梁製造に携わってきた新美典昭さんにインタビュー。溶接工という仕事のやりがいや難しさ、職人として大切な心などについて語ってくださいました。
鉄道を熟知したチーム力で造る頑強な橋梁
新美さんが所属するインフラ統括部では、橋梁、つまり道路・鉄道の上空や、河川や海峡などに架かる輸送路を製造しています。新美さんたち溶接工が担当するのは、その橋梁を造るために必要となるパーツの製造です。溶接工の手によって1枚の鉄板から形づくられる、無数の四角いボックスをつなぎ合わせていくことで、大きく長い橋梁が完成するのです。
多種多様な橋梁製造に携わる日本車両ですが、鉄道車両製造におけるリーディングカンパニーとしての強みを活かし、とりわけ鉄道橋の製造において優位性を発揮しています。インフラ統括部製造課長の小池雅史さんによると「鉄道橋製造や鉄道と立体交差する橋に関しては、特に大きなアドバンテージがあります。鉄道に関するデータや知識、蓄積されてきた経験値を駆使し、一つひとつの構造物製造から現地架設にいたるまで、より頑強で最適な橋梁製造が可能だと自負しています。」とのこと。
データに基づいた綿密な計画と、継承されてきた高度な技術力によって生み出される安全かつ強固な橋梁。そこには、鉄道製造で培った日本車両のチーム力と技術力が結集されているのです。
神経を研ぎ澄まし 鉄と熱と対話する
入社以来、溶接工として腕をふるう新美さんに溶接工の仕事について伺いました。「長い橋梁を構成する一部分を造るのが我々の仕事です。設計図に合わせて切断され、ボルトで締めるための穴が開けられた個々の部材を、熱を加えて接合しながらボックス状に組み立てていきます。自動溶接機で接合できる部分もありますが、ボックスの内側など細かい部分や機械が届かない部分は、我々溶接工が手作業で仕上げます。」
新美さんは入社時、電気関係の保全などに関する業務を希望していたものの、入社後の研修・訓練の時に適性を見出され溶接工に配属。当初は、数千度の熱を扱う過酷で危険な仕事に抵抗感があったそうです。「でも先輩の指導を受け、実際に作業の経験を積んでいくと、自分の腕一つで出来の良し悪しが仕上がりに現れる溶接工の仕事に、モノづくりの醍醐味を感じ始めました。」
溶接工の仕事は、気温や鉄の状態など周辺要因の影響はもちろんのこと、自身のコンディションや感覚のわずかな違いが出来映えを左右するそうです。「その日の体調や気分などによって、自分でも驚くほど仕上がりに差が出てしまいます。昨日できなかったことが今日は完璧な仕上がりになる、逆に昨日できたことが今日は全然うまくいかないということも日常茶飯事。だからどんな状況でも品質を維持し、出来上がりを一定に保つことが溶接の一番の難しさかもしれません。」と話す新美さん。
一般的な製品の溶接と、橋梁の溶接との違いについても伺いました。「例えば自動車の場合は、薄板溶接といって1mm程度の鉄板を扱うことがほとんどです。しかし橋梁の溶接は20mm前後、場合によっては100mm程もある厚板を扱うことになります。そのため、用いる電気の強さや熱量、光の強さなどが桁違い。さらに鉄道が走る橋の場合、相当な振動と重量がかかるため、それに耐え得るための頑丈さが要求されます。当然、検査も厳しく、わずかな欠陥やズレも許されません。」
環境や条件の変動を敏感に感じ取りながら、溶接する熱の温度、電気を当てる時のスピード、角度などを調整。火花の色の変化に目を凝らし、発せられる音に耳を澄ましながら指先に神経を集中させ、鉄や熱と対話をするように細やかに接合していく。壮大な橋梁を形成する一つひとつの構造物の隅々に、職人の繊細な感覚と技が宿っているのです。
初めてゼロから携わった一大プロジェクト「名港中央大橋」
印象に残っている仕事について新美さんは、名港中央大橋(伊勢湾岸自動車道の一部で、名港トリトンの一つ)の製作に従事した経験を話してくださいました。「それまでにも、明石海峡大橋など大きな橋梁の現場で従事したことはありましたが、歴代の先輩方が手掛けた製品の保全が主な役割でした。だから、新規の施工としてゼロの段階から携わった初めての仕事として記憶に刻まれています。」
設計担当や架設担当と意見を交わし、工期や進め方について、時には各々の主張が衝突することもあったとか。「安全性とスピード感、そして何より絶対に失敗が許されないという作業に対する厳密さ。すべてを高次元で実現させなければいけないという緊迫感がありました。」
実際の製作に入ってからだけでも、およそ3年の歳月を費やしたというビッグプロジェクト。「あれだけ大きな物を造るわけですから、橋梁を構成するための大中小、様々なボックスが必要になります。人が一人、ようやく入れるような小さなボックスの中で熱量を直に浴び続けながら溶接をしたり、大きなボックスの一辺だけの溶接に気が付いたら一日かかっていたり。工場の敷地内で仮組された状態の橋を見た時は、ようやく終わったという達成感と同時に、検査で不具合が出ないでほしいと祈るような思いでした。」
チャレンジを繰り返し 自分にとっての最適解を探る
溶接工に求められる資質について尋ねると「忍耐力と経験。溶接工という仕事は〝これをやっておけば正解〟という誰にでも当てはまるルールがないんです。電気の当て方、スピード、作業する時の姿勢、作業を補助するための道具の扱い方など、自分がやりやすい方法を見つけていくしかない。だから、忍耐強く、とにかく経験を重ねることでしか上達しないと思います。」
新美さんの仕事ぶりを間近で見ている製造課長の小池さんによると「どんなに経験値を積み、ベテランになっても決して妥協せず、常に高みを目指すために試行錯誤して挑戦している新美さん。その積み重ねがあるからこそ、技術が進化するのだと思います。例えば完全溶け込み溶接という非常に高度な技術を要する工法も、他の人には真似のできないような完成度の高い仕上がりで、工場内で新美さんの右に出る者はいません。」と新美さんの技能について語ります。
完全溶け込み溶接とは、金属同士をつなぎ合わせる際に、溶接材料を部品の奥深くまで浸透させて、継ぎ目がまったく分からないほど完全にくっつける方法です。「母材と呼ばれる本体にあたる材料と溶接部分に同等の強度が必要な構造物など、要となる部分に用いる技法です。橋梁は、極めて高い信頼性と耐久性が求められる構造物のため、この完全溶け込み溶接という高度な技術力を要する技法が不可欠なのです。」と小池さんは説明します。
新美さんは「後輩たちには、私が経験してきたこと、今持っている全てを伝えたい。でもそれは、あくまでも選択肢の一つでしかありません。私にとっての最善が全員にフィットするわけではないのです。通り一遍のやり方に終始するのではなく、好奇心を持って試しながら、自分にとっての最適解を導き出すことでしか、溶接工としての成長はないと思います。」と次世代へメッセージを送ります。
「失敗しないことが大切なのではなく、失敗した時にどう対処するか、どう立て直すかを経験している人が強い。だから、失敗を恐れずにチャレンジを繰り返すことで、自分の中での経験値を高めていってほしい。」と願っているそうです。
〝地図に残る仕事〟に携わる重責と喜び
「溶接工の仕事を続ける中で、喜びを感じる瞬間は?」との問いに「携わった橋が掲載された地図を目にした時。」と話す新美さん。
「20代の時はインフラと言われても、どれほどの重責を担っているか実感が湧かなかった。とにかく目の前の作業を欠陥なく終え、高い品質で仕上げることが自分の仕事だと思っていました。でも今は、地図に残る仕事に携わる以上、後世までも誇れるような仕事をしなければと感じます。自分の仕事の出来映え次第で、その橋梁が将来の人々にとって正の財産にも負の遺産にもなり得るという、やりがいと怖さを感じます。」
地震や天災などのニュースが流れるたびに、自分が造った橋が壊れていないかと緊張感が走るとも話します。
現在は、工長として後進の育成にもあたる新美さん。「単なる作業にならないように、自分たちの仕事の一つひとつが社会のインフラを支え、未来の街につながっているのだということも伝えていきたい。」
技術だけではない、プロフェッショナルとして大切にするべきマインドについても伝え続けます。
新美 典昭さんのプロフィール
平成4年日本車輌製造株式会社へ入社。以来、溶接工一筋で技術力を磨き、平成25年から班長を務め、令和2年工長に就任。好奇心旺盛で向学心があり、溶接工として求められるJIS溶接技能者をはじめ多種多様な資格を取得。中でも構造物現図作業1・2級の技能検定やアルミニウム溶接技能者など、高度な知識と技術を証明する資格も多数所有しています。
日本車輌製造株式会社 衣浦製作所
創業以来、約130年の歴史を誇る鉄道車両製造を中心に、輸送用機器、橋梁、建設機械などへ事業分野を拡大して日本経済の成長を支え続ける日本車輌製造株式会社。昭和50年に新設された衣浦作業所(現・衣浦製作所)では、橋梁・鋼構造物の仮組を担当。大江工場(名古屋市港区)、大利根製作所(茨城県)の機能統合・集約を経て、輸機・インフラ本部が発足。産業車両などの輸送用機器関連と橋梁などインフラ関連の製造を担います。
※愛知県優秀技能者表彰とは・・・
技能者の社会的地位の向上、技能水準の向上を図るため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を表彰する制度です。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準としてあげられています。
(令和7年9月取材)
