鉄道車両の内装工
緻密な手仕事で安全な車両の総仕上げ
鉄道車両の内装工
林 秋一(はやし あきかず)さん
日本車輌製造株式会社 鉄道車両本部 生産管理本部 製造部 内外装センター
テクニカルスーパーバイザー
■令和6年度愛知県優秀技能者表彰※ 受賞
新幹線をはじめとした鉄道車両、街づくりに不可欠な建設機械、物流を支える輸送用機器や橋梁など、社会や経済活動を支えるインフラの根幹を担う日本車輌製造株式会社(以下、日本車両)。中でも、創業以来およそ130年にわたり、事業の柱として歴史を紡いできた鉄道車両の製造を行うのが豊川製作所です。
設計、部材加工、構体(鉄道車両の主な構造部分)組立、塗装、台車(車輪に取り付けられた走行装置)組立など様々な工程を要する鉄道車両製造において、お客様である乗客に最も近い部分を任されるのが、内装工です。入社以来43年、内装工一筋で技を高めてきた林 秋一さんに、鉄道車両製造の仕事やその魅力について語っていただきました。
鉄道車両製造のスケール感に感動
床板や壁板、天井板など車両内部の組み立て作業を一手に担う鉄道車両の内装工。客室車両を担当する場合には、客室の座席やつり革、荷物用の網棚、ガラスといった様々な部品の取り付けなども含まれ、仕事内容は多岐にわたります。
林さん曰く「内装工は、乗客の方が目にする物、手に触れる物など最終的な工程を担います。お客様が乗車した時に違和感を感じたり、不快な思いを抱いたりすることがないよう、誰の目から見ても美しく快適に、安心して利用できる車両に総仕上げをするのが内装工の仕事です」とその責任の重さとやりがいを語ります。
林さんが内装工としての歩みを始めたのは、43年前。工業高校を卒業後、入社した日本車両で配属されたのが、鉄道車両製造の内装工場でした。
「もともとモノづくりが好きで、工業高校時代は自動車のエンジンなどに興味がありました。ただ、大量生産を支えるためのラインを中心とした自動車製造の現場は、自分自身の性格的に向いていないかもしれないという思いがあり、日本車両豊川製作所の工場見学会に参加。鉄道車両の製造現場を目の当たりにした時は、そのスケール感にとにかく圧倒されたことを覚えています」と当時を振り返ります。
さらに鉄道車両は多品種少量生産のため、自動車のようなラインでの生産では対応できず、手作業で1両1両造り上げていく職人たちの姿にも心を動かされたそうです。
髪の毛1本分の隙間も許されない細やかな仕事ぶり
入社後は通勤車両や特急電車、新幹線など多種多様な鉄道車両の内装を手掛けてきた林さん。入社から3~4年経った頃、運転台付きの車両を専門に担当する班が新設され、その専属班の一員に抜擢されました。運転台は、フロントガラスや運転機器があり、車両の種類ごとに運転席の仕様が異なるなど構造が複雑で多様。そのため、より高い技術力と精密さが求められるのです。
現場における自身の強みについて林さんに尋ねると「工業高校時代に学んだ図面を見る力が役に立っていると思います」との答えが返ってきました。
新車両のオーダーが入ると、初めて見る図面を前にどのように作業を進めるかを考察します。部品図面と組立図面のズレを見抜いて設計担当に相談したり、より作業がしやすい図面への調整を依頼したり、図面を読み解く力があることは、内装工としての大きな財産になっているそうです。
加えて「内装工にとって重要なことは、工具のことを熟知し、作業内容や状況に応じて工具を使い分ける総合的な力です」と話す林さん。
例えば荷物用の網棚を1つ取り付けるにしても、車体にドリルで穴を開け、タッパーという工具で穴に合わせてネジ山を刻み、ネジで止めるという流れが基本作業になります。ネジを1本止めるという一見単純にも思える作業に対しても、少なくともドリル、タッパー、ドライバーという3つの工具を要するのです。
また、車両全体を組み立てる際、溶接時などの熱影響によって生じるひずみに合わせて、ハードボードと呼ばれる木製の内装材などを鉋(かんな)やのみ、やすりを使いこなして削ったり、平らにしたり、滑らかにしたりと微調整する必要があります。
林さんによると「内装工という仕事が、車両製造における“大工さん”と呼ばれるゆえんは、ここにあるのだと思います」とのこと。
図面を紐解き、臨機応変に工具を操る林さん。わずかな隙間もズレも決して見逃さない職人としての責任感のもと、車両の完成へ向けて一つひとつの工程を心を込めて仕上げていきます。
林さんが客室を担当していたまだ駆け出しの頃、先輩に言われた印象深い言葉があるそうです。座席の端にある袖仕切りという部分を取り付けていた時のこと。0.1mmにも満たないわずかな隙間を指摘され、「ここに隙間が空いていたら、お客様の髪の毛が挟まるかもしれない」とやり直しを命じられたのだとか。
長きにわたってキャリアを積む林さんですが、いまだに作業の大事なポイントに差し掛かるたび、この時の先輩の言葉が頭をよぎり、最後の最後まで気を引き締めるきっかけになっているそうです。
「モノづくりには、ゴールがありません。造ったモノの先には必ずお客様がいる。お客様が何を望んでいるか、どうしたら喜ぶか、より安心・安全に利用していただくためには何が必要かと考えていたら、いい加減な仕事なんてできるわけがないんです。もっとこうした方が良い、ここを改善したいという思いがおのずと湧いてくるから、終わりなんてないですよね」。
決して経験にあぐらをかくことなく、知識、判断力、巧みの技、さらには妥協を許さない厳しさなど、内装工として研鑽を積み、挑戦を続けている林さん。その丁寧な仕事ぶりと出来上がりの緻密さこそが、“匠”として一目置かれる理由なのでしょう。
誇りを胸に次世代を育成し 乗客の安全を守る
車両製造に携わるやりがいを尋ねると「自分が手掛けた車両が、実際に運行している姿を目にした時。偶然、乗車した車両の編成番号を見て、自分が担当した車両だとわかった時の誇らしい気持ちも格別ですね」と目を輝かせて語ってくださいました。
現在はテクニカルスーパーバイザーとして後進の指導にあたる林さん。信条としていることは、一人ひとりに合わせた声掛けや指導の仕方だそうです。「個人の適性やその日の様子を見極めながら、タイミングや言葉を選んで声掛けをしています」。そして、良い仕事に対しては最大限の賛辞を贈るとも。「これまでの先輩方が私にしてくださったように、心を通わせる指導で個々の特性を伸ばしていきたいと考えています」と話します。
子どもたちのあこがれの乗り物でもある新幹線をはじめ、日々の通勤や通学、特別な日の遠出や旅行など、社会生活の核となる移動手段として欠かすことのできない鉄道車両。鉄道車両製造に心血を注いできた林さんは「鉄道車両製造という、社会を支えるための重要な仕事に携わっているのだという誇りと喜びを、若い世代にもぜひ感じてほしい。そして、チャレンジ精神を持って、愛知県が誇るモノづくりを発展させてもらいたいです」と、後進への熱いメッセージを語ってくださいました。
林 秋一さんのプロフィール
工業高校を卒業後、日本車輌製造株式会社へ入社。豊川製作所の内装工場に配属され、通勤車両や特急電車、新幹線など様々な鉄道車両の内装工として従事。主に運転台の組み立てを担当しました。班長、工長を経て58歳からはテクニカルスーパーバイザーとして後進への実技指導にも尽力しています。
日本車輌製造株式会社 豊川製作所
創業以来、約130年の歴史を誇る鉄道車両製造を中心に、輸送用機器、橋梁、建設機械などへ事業分野を拡大して日本経済の成長を支え続ける日本車輌製造株式会社。昭和39年に総合車両工場として集約整備された豊川製作所では、新幹線をはじめJRおよび私鉄・地下鉄などの多種多様な鉄道車両を開発・生産しています。中でも国内トップシェアを誇る新幹線製造においては、令和元年に新幹線電車製作累計4,000両を達成。安全性や快適性、環境にやさしい高品質な車両製造を継承すると同時に、超電導リニアの開発・製造や海外市場の開拓など、未来のモノづくりの発展を担っています。
※愛知県優秀技能者表彰とは・・・
技能者の社会的地位の向上、技能水準の向上を図るため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を表彰する制度です。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準としてあげられています。
(令和7年7月取材)
