あいちの労働あれこれ


魅せる構造美に息づく伝統の技と発想

堂宮大工(株式会社望月工務店 代表取締役)
望月 成高さん

■令和4年度愛知県優秀技能者表彰 受賞
■令和3年度とよはしの匠 認定
■iF DESIGN AWARD 2024(ドイツ)
GOLD AWARD受賞 「星野神社 覆殿(おおいでん)・本殿」
 AWARD受賞 「不惑の一棟」
■日本空間デザイン賞2023
KUKAN OF THE YEAR 2023受賞「星野神社 覆殿・本殿」
 BRONZE PRIZE(住空間)受賞「不惑の一棟」 他、受賞歴多数


 日本が培ってきた伝統的な木造建築技術・技法を用いて、世紀を超えて守り継がれていく社寺などの建造物。その歴史は、優れた職人技を引き継ぐ堂宮大工の存在なくしては語れません。今回は海外からも高い評価を受けている望月成高さんに、堂宮大工としてのこだわり、取り組みへの思いを語っていただきました。

伝統継承の危機に立ち上がる

 「今、伝統的な木造建築技術・技法を習得した大工が減少しています。このままでは、町の中の古民家、お寺やお宮の維持は到底できません。10年、20年後どうなってしまうのか」。堂宮大工で設計士でもある望月さんは、そんな危機感を抱いています。
 そこで、伝統的な木造建築の技術継承のひとつとして、各種の建築賞へ積極的にエントリーしようと決意されました。
 国内外の著名なデザイン賞受賞を重ね、そして、世界三大デザイン賞の1つで最も権威ある国際的な賞で認められたのが、豊川市にある『星野神社』です。望月さんは、賞へのエントリーを伝統的な技法を継承するためのプロジェクトと捉えつつ、次世代へつなげていく役割を果たす建築でなければならないと考えました。伝統的構法、石場建て(石の上に柱を載せた住宅の基礎の代わりとも言える)など、宮大工として磨いてきた技を活かしながら、現代の構造解析技術も採用。伝統とテクノロジーの融合をはかることで、今後の社寺建築の技術継承に新たな可能性を加えたと評価されました。
 「これまでは、建築現場に県内の大学や高等技術専門校などを呼んで、伝統技術・技能を見せて、伝えてきました。しかしこうした限られた活動では、技術の継承は進みません。今回国内外の建築賞を受賞し、公の場で評価を得たことで目する機会を増やし、多くの若者に、大工という職業への意識・興味を持ってもらうきっかけが作れるのでは」と望月さんは感じています。


石場立て


水平と垂直で構成された柱と貫(柱と柱を横につなぐ材木)
この佇まいが日本の美意識を極め て高く表現していると評価された



『iF DESIGN AWARD』表彰式の様子


『GOLD AWARD』のトロフィー等


伝統技術を新たな領域へ

 『星野神社』と同様に世界三大デザイン賞のひとつを受賞しているのが、望月さんが手掛けた豊川市の住宅『不惑の一棟』です。
 堂宮大工の伝統技能をデザインとして活かした住宅で、ここには堂宮大工として培ってきた技、経験をもとに独自の発想を加えることで、木造建築ならではの魅力、そして伝統技法をさらに高めていきたいとの思いがあります。
 そのひとつが、住宅の軒(のき)です。ここには、寺社などの屋根に使われている「跳ね梁(はねばり)」の技法(軒先を長く突き出すために、軒先内部で梁と軒先をつなげ、テコの原理で軒先の重量を支える構造)が用いられています。寺社などの大屋根の場合、通常は太い丸太を使うため、この技法をそのまま住宅に転用すると大きく厚みのあるものになってしまいます。そこで望月さんは、伝統技法を住宅用に変換し、長さ1メートル40センチの軒を備えながらも、スタイリッシュな佇まいを実現しました。
 加えて跳ね梁と合わせる効果で、通常の住宅では、軒を垂木(たるき)という屋根の棟から軒先にかけて、屋根なりに取り付けられる木材で支えています。しかし、軒の長いこの住宅の垂木はその様な使い方でなく、さらに通常のものより細い材をわざと使用しているのです。ここには次世代の大工に向けた「メッセージ」を込めていると、望月さんは言います。
 「昔から、大工は後の世代に問いかけるやり方をする。どんな想いで、どう作ったのか、建物をとおして当時の職人と対話して、理解しているのです。こうしたメッセージを読み取るためにも、基礎をしっかり学び、努力を積み重ねることが大切。経験の蓄積から生まれる応用力から、新たなことを発想できるという醍醐味があります」。


桔木(はねぎ)とは


軒を見上げる
あえて細い材を使用した 垂木が見える



室内から外を眺める


受け継がれた技術を次世代へ繋ぐ



 望月さんの手掛けた2つの建築物が国際的デザイン賞で認められ高い評価を受けたことは、大工や設計を目指す若者達の目に触れる機会を広げ、受け継がれた伝統技術の新たな可能性を伝えるきっかけになることでしょう。
 「地道に研鑽を積んで、それが形になった時のうれしさ、達成感を味わえることが大工の仕事の魅力。やってみたい職業として、多くの若者に注目してほしい」。その願いが、望月さんの手がける建築には息づいているのです。
 「職人を育てるためには、建築のごく一部に伝統の技を取り入れるだけでもいいのです。それだけでも職人は経験値を積み、腕が上がっていくので、そういった形で伝統をつなぐ道を残していきたい。まずは形を残さなくては。そのためにできることは、これからも研鑽錬磨と共に続けていきます。それが私の役割です」。


特注の「丸鑿(のみ)」
親方が彫刻で使う鑿の刃を密かに木型に取り、刃物鍛冶に自分専用のものをつくることで
同じディテールを彫れる。「これも継承のひとつ」と望月さんは話す。


望月さんは社寺の屋根につけられる装飾の彫刻も手掛ける現物があれば、見て、手で触れることで彫りがわかるという


望月成高さんのプロフィール

23歳の時に堂宮大工に弟子入り。9年間、伝統的建築技術・技法を学ぶ。その後、家業を継ぎ、現在、株式会社望月工務店代表取締役。日本伝統建築技術保存会 技能認定者として伝統技術・技法の継承に尽力。後進の育成はもちろん、伝統技術・技法の普及活動にも積極的に取り組んでいる。

株式会社 望月工務店(ホームページ)

愛知県優秀技能者表彰とは・・・

技能者の社会的地位の向上、技能水準の向上をはかるため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を表彰する制度です。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準としてあげられています。

愛知県優秀技能者表彰(愛知県ホームページ)