あいちの労働あれこれ


一期一会の一杯が、おもてなしの極意

バーテンダー(バー ガストロノーム オーナー)
吉家 知也子(よしいえ ちやこ)さん

 ■令和4年度愛知県優秀技能者表彰 受賞
 ■第33回全国バーテンダー技能競技大会(平成18年)
  創作部門第2位、ベストネーミング賞受賞「カンパネラ〜鐘〜」



 バーを訪れるお客様が望む心地よいひととき。そこにはお客様の好みに応じたお酒の提供はもちろん、接客や会話など、さまざまなスキルが求められます。
 今回はバーテンダーとして活躍する吉家知也子さんに、仕事に対するこだわり、職業人として大切にしていることなどをお聞きしました。

「職人の世界」に自分をかける



 クラシック音楽を聴きながらオリジナルカクテルが楽しめるバー『バー ガストロノーム』。吉家さんがバーテンダーという職業に興味を持ったきっかけは大学生時代のアルバイト経験です。バーテンダーとして働きながら出会った先輩の姿に心を動かされたと言います。
 「先輩方は時間を見つけては、さまざまな試みを何度も繰り返し、お客様に喜んでいただけるカクテルを追求されていました。その取り組み方を目にした時、バーテンダーは『職人の世界』と気づき、心をひかれました」。


常にお客様に寄り添った一杯をめざす

 その後、バーテンダーとしての経験を積み重ねてきた吉家さん。この職業の魅力は、職人的要素と接客業的要素、それぞれで自分らしいやりがいを追求できることだそうです。
 職人としてのこだわりが最も注がれているのは、オリジナルカクテルの考察。吉家さんがめざすのは、伝統的なカクテルのイノベーションです(リノベーションではなく)。スタンダードカクテルに新たな発想とアレンジを加え、次の時代に繋がるオリジナルカクテルを創作したいと考え続けていると話します。



『Natsuのテキーラトニック』
旬のスイカを使った清涼感あふれるカクテル スタンダードカクテル「テコニック」がベース




『西瓜のノンアルコール』グラスのふちに飾った塩がスイカの甘みを引き立てる夏におすすめの爽快ノンアルコールカクテル

 こうしたオリジナルカクテルの発想のヒントを得るのは、さまざまな体験や人との出会いです。常に美術館や音楽会などに足を運び、刺激を受けるようにしていると話します。異業種の職人の方との交流にも積極的です。中でも、料理人やパティシエの方々からは、発想のヒントはもちろん、学ぶことが多いと言います。例えば、夏のカクテルであれば、視覚的な清涼感はもちろん、旬のフルーツをアレンジすること、塩分補給 に配慮したアイデアを盛り込むこと・・・、学んだことを活かし、自分らしい創意工夫を一杯に注いでいるそうです。
 「お客様に楽しんでいただきたいのは、お酒の味わいやお店の雰囲気、空間などです。日常を忘れて特別なひとときを過ごしていただけるよう、非現実の世界を提供することを目標にしています」。

プロフェッショナルとしての誇りは所作に宿る




  日々、お客様と向き合っている吉家さんの基本姿勢は、どのような状況であろうと常に同じレベルを保つことです。そのために大切にしていることが、茶道のお点前を手本とした『所作』。ムダな動きをしない、同じ作業を徹底することで、常に満足していただけるサービスを提供するように心がけているそうです。
 そして、接客へのこだわりはお客様の気持ちに寄り添うこと。来店される前の食事内容、アルコールに強い、弱い、その日の天候・・・。会話を通して、その時々のお客様にふさわしい味わいを察知して、アルコール濃度なども変えているそうです。
 「微妙な味の変化を判断し、お客様にカクテルが提供できるのは、これまでの経験があるからでしょうか。同じカクテルであっても、その日、その時、お客様がおいしいと感じていただける一杯を追求する。そのために心を尽くすのがバーテンダーです」。

経験と思いを次の世代へ

 「私がこれまで蓄積してきた経験、先輩方から学んできたこと。それを後進のバーテンダーに伝えていくことも私の役割」と語る吉家さん。若手バーテンダーの育成にも精力的に取り組み、交流の場を持つようにしているそうです。そこで伝えていることの一つは、社会貢献の重要性だと話します。
 「人に寄り添い、社会と共生していくことが、バーテンダーの存在意義をあらわすことではないでしょうか。私は、先輩方に教えていただいたことを次の世代に繋ぐことはもちろん、業界としてできる社会貢献について考えるように努めています」。

最初の一歩を踏み出そう

 職人の世界』に心をひかれ、バーテンダーの道を選択した吉家さん。さまざまな職人の方々との交流の中で気づいた共通点の一つは、苦労をつらく感じていないことだと言います。このことは若いバーテンダーの人たちにも気づいてほしいそうです。
 「私自身もそうですが、ポジティブとネガティブは表裏一体、苦労は成功のチャンスととらえ、がんばることは楽しいと感じてきました。だから続けられたのです」。


 そして、自身の転職経験を踏まえ、これからの社会を担っていく人たちに向けてメッセージを送ります。
 「自分がやりたいと思えることに出会えたのなら、勇気を持って最初の一歩を踏み出してほしい、続ける覚悟を持って挑んでほしい、努力して登った山からの景色の美しさを味わってほしい。私はそう願っています」。





吉家知也子さんのプロフィール

 大学卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、バーテンダーに転職。経験を積み、「バー ガストロノーム」を開業。一般社団法人日本バーテンダー協会常務理事。バーテンダー歴約30年。
 現在、海外勤務経験のあるお客様を講師として招き、若手バーテンダーを対象にした英会話教室などを企画。様々な経験、ノウハウを繋ぐ交流の場を積極的に設け、後進の育成にも取り組んでいます。


第33回全国バーテンダー技能競技大会(平成18年)創作部門第2位、ベストネーミング賞受賞「カンパネラ〜鐘〜」


ガストロノーム(ホームページ)

愛知県優秀技能者表彰とは・・・

 技能者の社会的地位の向上、技能水準の向上をはかるため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を表彰する制度です。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準としてあげられています。

愛知県優秀技能者表彰(愛知県ホームページ)