航空機エンジン検査工
航空機の安全を守る砦『エンジン検査工』
航空機エンジン検査工
鈴木 佳次(すずき よしつぐ)さん
三菱重工航空エンジン株式会社 整備部 エンジン整備課 検査係
大型検査三班 作業長
■令和5年度愛知県優秀技能者表彰※ 受賞
航空機の安全飛行を支えるうえで不可欠なエンジン整備。その業務において検査士には、フライトで生じた不良個所を見極め、部品の交換・修理などを的確にチェックしていく役割が求められます。
入社当時から検査職一筋に歩んできた鈴木佳次さんに、検査士としてのこだわりについてお話を伺いました。
責任の重さと向き合う
航空エンジンの部品製造事業、そしてエンジン整備事業を担い、航空機の安全性向上に取り組む『三菱重工航空エンジン株式会社』。鈴木さんは、その整備部門の検査士として、日々、検査業務にあたっています。
航空エンジンの整備は使用環境などで異なりますが、飛行時間1~2万時間の間隔で行う定期整備と、不調などが発生した場合の点検整備があります。整備の際には航空機から取り外され、エンジンの性能回復や信頼性確保のため、整備工場へ搬入されてきます。
搬入されたエンジンは、損傷具合などを確認する『受入検査』、エンジンを分解・洗浄したのちに行う『部品検査』、組み立て後に行われる『完成検査』、そして機能試験後に最終確認をする『出荷検査』の流れで検査が進められます。それぞれの段階で目視はもちろん、3次元計測器などを使用してチェック。
鈴木さんが検査を担当するのは、エアバスA320用V2500エンジンで、月に5〜6台、年間で約60台に及ぶそうです。その1台1台、一つ一つの部品を確認する際、検査業務の責任の重さを感じていると言います。
「航空機のエンジントラブルは、重大事故につながりかねません。だからこそ、中途半端な検査をしてはいけないという思いで取り組んでいます。私にとって責任の重さは、やりがいでもあります」。
あえてマニュアルを覚えない
航空エンジンの検査業務は、エンジンメーカーから支給された英文のマニュアルに基づいてすべて行われます。そのマニュアルは、エンジンの機種ごとに異なり、パーツごとの検査内容や制限値などが、こと細かく記されています。
航空エンジンを構成する部品点数は数万点。検査業務では、この膨大な数の各部品について、飛行時間などによって受けたダメージを精密に測定しながら、マニュアルと照らし合わせ、交換する部品、修理に回す部品、継続して使用する部品、と選別していきます。鈴木さんは、検査士として最もやっていけないことは『思い込み』だと話します。
「私の場合、あえてマニュアルは覚えないようにしています。曖昧さを排除するためです。根気よく、粘り強く、マニュアルから逸脱していないことを確認し、それぞれの部品を検査するように心がけています」。
また、英文のマニュアルはそのまま使用しているという鈴木さん。
「日本語に訳してもらうこともできますが、微妙なニュアンスの違いによっては、交換しなければならない部品がそのまま使用できてしまう。場合によっては人命に関わる危険になりうるからこそ、英語の原文を自分で確認しながら作業を進めています」。
納得できるまで信念を貫く
どれほどシビアに部品検査を行っても、組み立て後にトラブルが発生することがあります。性能が基準を満たさない、オイル漏れ・・・。こうした連絡があった場合、鈴木さんは時間の許す限り、その現場に立ち会い、他の社員とともに原因を究明し、問題解決に取り組むようにしています。
「それは、最後まで自分で確認したい、最後まで妥協したくないという思いが強いからです。こうした経験は、自分の知識を増やすことにもなり、私自身の成長につながると考えています」。
こうした鈴木さんの原点は、指導を受けた先輩からのアドバイスにあるそうです。
「先輩からは『徹底的に検査するのが検査士』という姿勢を学びました。その教えを引き継ぐためにも、私は自分が納得できるまで検査するというスタンスを大切にしています」。
目や耳、手など五感を使った検査は、集中力が必要で神経を使う作業です。エンジンの部品は数万点あるため根気も必要です。「『なぜこんな傷がついたのか』、『ここに傷があれば、あの部分も損傷しているのでは』など、部品の状態を見ると想像がかき立てられます。考えを巡らせ、原因を突き詰めて解明することがこの仕事の難しさでもあり、おもしろさでもあります」と鈴木さんは話します。
先輩に近づけ
入社当時、鈴木さんが最初に掲げた目標は、『愛知県優秀技能者表彰』を受賞すること。それはお手本となる先輩が受賞していたからです。若い頃は、自分に検査業務があっているとは思えなかったそう。しかし、先輩からの指導、同期の仲間たちの支えがあり、続けられたと言います。そして令和5年度に目標を達成した時、先輩に少しは近づけたと感じたそうです。
「受賞は、日々の努力の結果です。業務への大きな自信になるとともに、より一層、賞の名に恥じないようにと、いい意味でプレッシャーを感じています。まだまだ勉強、常に勉強。その気持ちは変わっていません」。
後輩の良き手本となれ
今では、先輩たちから受け継いできた知識を次の世代に伝えていく立場にもなった鈴木さん。エンジンは同じような使用状況であっても劣化の仕方はすべて異なり、一つとして同じということはありません。部品の表面だけでなく、内部の見えない部分についても損傷の有無を判断しなければならず、キズの種類も多いため、傷を見分ける目を持つことも重要だそうです。
後輩たちには、こうした自分の経験を踏まえながら、アドバイスをしていきたいと話します。後輩たちが悩んだ時、迷った時の良き相談相手になれるよう、自分自身が、信頼される先輩、慕われる先輩にならないといけないと今後の目標を語っていました。
そして、後輩はもちろん、若い世代の人たちに伝えたいことは、経験することの大切さだと言います。
「私は、『何事も経験』という言葉を大切にしています。やってもいないのに、できませんとは言いたくないという気持ちで、いろいろなことに取り組んできました。どんな経験でも、いずれは役に立ちます。ひるまず、まずはやってみましょう」。
(写真提供:三菱重工航空エンジン株式会社 令和6年6月取材)
鈴木佳次さんのプロフィール
工業高校(電気科)卒業後、中日本航空専門学校(航空生産科)へ進学。卒業後、三菱重工業株式会社名古屋誘導推進システム製作所に入社、検査職に配属。航空工場検査員資格(国家資格)を取得。検査工歴25年。現在、社内の競技会講師、若手教員の講師として、後進育成にも尽力しています。
三菱重工航空エンジン株式会社
民間航空機に搭載されるエンジンの国際共同開発、部品製造、修理などを通して、世界の航空機産業に貢献する『三菱重工航空エンジン株式会社』。
整備事業部門は、JCAB(国土交通省航空局)をはじめ、各国航空局の認証を取得。エアライン向けエンジンの整備、部品の修理などを行っています。
愛知県優秀技能者表彰とは・・・
技能者の社会的地位の向上、技能水準の向上をはかるため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を表彰する制度です。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準としてあげられています。