建築板金工
一枚の銅板から美しい屋根をつくる
建築板金工
清水 三男(しみず みつお)さん エムテック代表
平成27年度愛知県優秀技能者表彰「あいちの名工」受賞(※末尾参照)
令和7年度 厚生労働省 卓越した技能者表彰「現代の名工」受賞(※末尾参照)
住宅の屋根や外壁、雨どいなどを、金属の板を加工して仕上げる「建築板金」。建物を雨水から守り、長持ちさせるために欠かせない仕事です。この道を50年近く歩んできた清水三男さんは、一般住宅の新築・改修から神社仏閣の修繕まで、屋根や雨どいを中心に幅広く手掛けてきました。清水さんの仕事場を訪ね、長年培ってきた技と、ものづくりへの思いを伺いました。
人とのつながりの中で磨いてきた技術
清水さんが建築板金の世界に入ったのは、高校を卒業した18歳のときでした。板金会社に就職すると、昼間は職人として現場で働き、仕事を終えた後は職業訓練校へ。3年間、仕事と勉強を両立しながら建築板金の基礎を身につけ、2級建築板金(内外装板金作業)技能士を取得しました。「いろいろ知れてよかったよ。友達もできたしね。」と、当時を楽しそうに振り返る清水さん。訓練校では、現場だけでは得られない幅広い知識や技術に触れ、同じ道を志す仲間とのつながりも生まれました。そこで築いた人間関係は、その後の仕事で声を掛けてもらうきっかけにもなり、職人としての歩みを支えてきました。
現場では、先輩職人の仕事を見ることも大切な勉強でした。当時の職人の世界は厳しく、分からないことを一から丁寧に教えてもらえるわけではありません。先輩の仕事をじっと見ていれば、「何見とるんだ。」と怒られることも。自分の仕事をしながら横目で手元を見て、道具の使い方や材料の加工の仕方を覚えていったと言います。
そこで身につけていったのは、加工の技術だけではありません。屋根は雨水から建物を守るものだからこそ、風や雨がどの方向から当たるのかを考え、その建物に合った施工方法を判断する。そんな建築板金の基本を、清水さんは親方や先輩から学びました。
こうした人とのつながりから、清水さんは先輩から声をかけられ神社仏閣の屋根仕事にも携わるようになりました。神社仏閣の屋根は、一般住宅とは異なり、規模が大きく、形もさまざま。棟からロープを垂らして勾配を決めることもあるなど、屋根そのもののつくり方が違うといいます。こうした仕事に携わる機会は限られているため、実際の現場で経験を積むことが何よりの学びでした。先輩職人とともに仕事をする中で、一般住宅とは異なる屋根の構造や施工方法を学び、技術と判断力を磨き、仕事の幅を広げていきました。
見えない急所を見極め 形にする職人の腕
清水さんの仕事の中でも、特に高度な技能が求められるのが、神社仏閣などの銅板屋根です。取材で見せてもらった『一文字葺き(いちもんじぶき)』は、加工した銅板を一枚ずつ規則正しく重ねて屋根を仕上げていく技法。一見すると同じように銅板が並んでいるだけに見えますが、その仕上がりを左右するのは、施工する職人の経験と判断力です。
一文字葺きの施工では、まず建物の芯を基準に、銅板の継ぎ目が同じ位置に並ばないよう一枚ずつ配置していきます。銅板の端を折り曲げてつくる「ハゼ」という接合部分をかみ合わせ、木材を当てて均等な力で上側のハゼだけを叩いて締める。その作業を繰り返すことで、銅板を美しく並べながら、雨水が入り込まない屋根に仕上げていきます。
ハゼを調整する
ハゼをかみ合わせる
隙間なくつなぎ合わせていく
銅板を固定する釘の位置にも、長年の経験から培われた判断があります。銅板は、屋根の下地と銅板をつなぐ金具『吊子(つりこ)』を使って固定します。吊子を銅板の端に引っ掛け、釘で下地に留める仕組みですが、清水さんはその位置について「急所がありますのでね。」と話します。釘を打つ位置がわずかに違うだけでも、施工後に銅板がずれ、屋根全体が動いてしまうことがあるためです。銅板の端と吊子がしっかりかみ合い、銅板が動かない位置を見極めて、一枚一枚丁寧に固定していく。完成後には見えなくなる部分にも、屋根を長く保つための技術が込められています。
さらに職人の腕が問われるのが、図面や寸法通りには納まらない場所です。神社仏閣の屋根には曲線や複雑な形状も多く、現場ではどうしても調整が必要になる箇所が生まれます。そこで、むやみに銅板へハサミを入れるのではなく、雨水の入り方まで考えながら、できるだけ切らずに納める方法を考える。難しい箇所でも、完成したときにはその苦労を感じさせないほど自然に、美しく仕上げる。「素人が見ても職人の苦労を感じさせないようにきれいに仕上げるのが職人の腕。」と清水さんは話します。
寸法だけでは決められない部分を見極め、手を動かしながら最善の納まりを探していく感覚は、長年にわたり数多くの現場と向き合ってきたからこそ身についたものです。また、清水さんが頼りにするのは目だけではありません。銅板を金槌で叩くと、その当たり方や力の加わり方によって音が変わるといいます。「ちゃんとしたところを叩くと、いい音がするんだよ」と清水さん。叩いたときの音の違いを耳で聞き分けながら、道具の当たり方や力の加減を確かめていくことも、長年の経験で培われた職人の感覚です。見た目には現れにくい一つひとつの判断と手仕事の積み重ねが、雨に強く、美しい銅板屋根をつくり上げています。
軒先まで美しく仕上げられた銅板屋根
美しさにこだわり 磨いた技を次の世代へ
清水さんが仕事で何より大切にしているのは、雨漏りを防いで建物を守ること、そして「建物の美観」です。神社仏閣の銅板屋根の施工ではそのこだわりがよく表れていて、屋根の左右のバランスや辺の線の通り方、斜めから見たときの見え方まで考え、建物全体が美しく見えるように仕上げていきます。
その技の一つが『回し葺き(まわしぶき)』です。一文字葺きで仕上げる神社仏閣の屋根などで、角の部分を曲面に沿って納めるために使われる技術で、その形が蛤(はまぐり)の貝に似ていることから、職人の間では『蛤』と呼ばれています。
回し葺きを施した屋根
軒先の先端まで美しく仕上げる
硬い金属でありながら、仕上がりに求めるのは柔らかな曲線です。「ふんわり叩いたり曲げたりして、柔らかいイメージや優しいイメージがつくれます。」と清水さん。銅板の叩き方や曲げ方を加減しながら、周囲の屋根となじむ自然な曲線をつくっていきます。雨水が入り込まないよう確実に納めながら、辺の線をきれいに通し、見る角度が変わっても美しく見えるように仕上げる。機能と美しさの両方を成立させるところに、清水さんの経験と技が表れます。
こうした技術は、昔の職人が残した仕事から学ぶこともあります。古い寺社の屋根を修理した際には、現在では複数の板をつないでつくることが多い回し葺きの曲面を、幅の広い一枚の銅板を巧みに切り、曲げて仕上げた仕事を目にしたことも。「すごく器用なことをやっていたんだなと思いました。昔の人のやり方もやはり勉強になりますよね。」と清水さんは話します。
「自分の仕事は芸術作品だと思っている。」と清水さん。完成したときの屋根の形や辺の線の美しさにこだわるだけでなく、その先の姿にも思いを巡らせます。銅板屋根は、雨風にさらされながら色合いが変化し、やがて銅の表面に生じる青緑色のさび『緑青(ろくしょう)』が生まれて独特の風合いをまといます。「10年、20年経ってくると、また趣が出てくる。」長い年月を経た建物の姿まで思い描きながら仕上げることも、銅板屋根に携わる仕事の魅力です。
清水さんが手がけた志賀神社の屋根
少林禅寺の屋根
浄専寺納骨堂の屋根
旅行に出掛けても、つい建物の屋根や細かな仕上がりに目が向き、「この年になっても学ぶことはたくさんありますよ。」と話します。現在は訓練校での講習や技能検定の指導などにも携わり、後進に自らの技を伝えています。「昔は『見て盗め』だったけど、これからはこっちから教えていかないとね。」
かつて清水さん自身が親方や先輩職人から学び、人とのつながりの中で磨いてきた技は、清水さんの手から、次の世代へと受け継がれていきます。
清水 三男さんプロフィール
高校卒業後、18歳で板金会社に就職。働きながら職業訓練校に3年間通い、建築板金の知識と技能を身につけ、2級建築板金(内外装板金作業)技能士を取得する。その後も建築板金工として経験を重ね、独立。1級建築板金(内外装板金作業)技能士として一般住宅の屋根・外壁・雨どいなどの施工・修理から、神社仏閣の銅板屋根まで幅広い仕事を手掛けてきた。
平成27年度に『ものづくりマイスター』と『愛知県優秀技能者表彰(あいちの名工)』を受け、令和7年度には「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰を受けた。
エムテック
建築板金工事を中心に、一般住宅の屋根・外壁・雨どいの施工や修理、雨漏りへの対応などを手掛ける。神社仏閣などの銅板屋根にも携わり、建物を雨風から守る機能性だけでなく、屋根のラインや曲線、全体の納まりなど、美観にも配慮した施工を行っている。
所在地:岡崎市細川町長根80-2
電話:0564-45-6679
※愛知県優秀技能者表彰(「あいちの名工」)とは・・・
技能者の社会的地位の向上や技能水準の向上を図るため、優れた技能を持ち、その技能を通して社会に貢献された方を愛知県知事が表彰する制度。選考は、市町村、商工会議所、商工会および産業団体等からの推薦をもとに行われ、後進の指導育成、社会貢献なども選考基準となっている。
※卓越した技能者の表彰(「現代の名工」)とは・・・
卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を厚生労働大臣が表彰する制度。技能の世界で活躍する職人や技能の世界を志す若者に目標を示し、技能者の地位と技能水準の向上を図るとともに、技能者の模範となり、将来を担う優秀な技能者の確保・育成し、優れた技能を次世代に承継することを目的としている。
厚生労働省 技のとびら 技能振興ポータルサイト(現代の名工Navi)
(令和8年8月取材)
