株式会社河合電器製作所
利益に直結しない「余白」がチーム力を育む
「製造業をもっとおもしろくしよう!」——そんなビジョンを掲げ、意見交換やアクティビティを通じて社員同士の相互理解を深めるオフサイトミーティングを実施するなど、社員間のコミュニケーションとチームワークを育み、ワクワクしながら働ける職場づくりに取り組んできた企業があります。名古屋市に本社を構える株式会社河合電器製作所です。昭和4年の創業以来、電気ヒーターを開発・製造してきたモノづくり企業である同社の代表取締役社長・佐久真一さんに、職場改善に込めた想いや具体的な施策とその成果について詳しくお聞きしました。
ヒーターの歴史とともに歩むモノづくり企業の改革
昭和4年に創業した『株式会社河合電器製作所』は、佐久真一社長の祖父が創業した会社です。佐久社長が4代目にあたり、もうすぐ100周年を迎えます。「ニクロム線(電熱線)に電気を通して熱に変えるヒーターの技術が生まれたのがおよそ100年前のこと。いわばヒーターの歴史とともに歩んできたのが当社です」と佐久社長は話します。
代表取締役社長 佐久 真一 さん
バブル期までは、ホットプレートや炊飯器など幅広い家電製品のヒーターを製造し、売上高はピークを迎えました。しかし、佐久社長が入社した平成12年頃、中国製品の台頭で価格競争が激化。値下げ要求が厳しくなり、薄利多売を強いられるようになりました。「値下げするために従業員の給料を下げざるを得なくなる。製造業で働く人たちはみんな元気がない時代でした。」と佐久社長は振り返ります。こうした状況を見かねた佐久社長は、社員一人ひとりが製造業の面白さを実感し、ワクワクしながら働ける企業風土を醸成していこうと考えたのです。
製造現場
ものづくりの現場とは思えないデザイン性に富んだ空間
正解のない映画観賞会が社員の対話を生んだ
同社が目指したのは、社員一人ひとりが自発的に行動し、チームで成果を上げていく企業風土です。お互いさまの精神で一人ひとりを大切にする文化を、20年ほどかけて地道に作り上げてきました。お互いの長所・短所を知り、補い合うことで「チーム力」を高めることに重きを置いています。
平成12年に東郷工場の副工場長として入社した際、「とにかく社員の元気がない」と感じた佐久社長は、「たとえ東京やニューヨークに行っても、『私たちは河合電器製作所の社員である』と胸を張って言えるようなプライドが持てる会社を作りたい。」と社員に伝えました。
そして、変革に向けた地道な取り組みを始めました。ただ、最初からうまくいったわけではありません。「コストの成り立ちとか、在庫管理の手法とか、仕事に直結する勉強会を開いたんですが、どうもうまくいきませんでした。」と佐久社長は振り返ります。その後、試行錯誤を続ける中でたどり着いたのが、社員を集めた「映画観賞会」を開催することでした。「答えがないものをテーマにした方がいいと思い、途中から方向転換することにしたんです。」
佐久社長自身が映画をセレクトし、15~20人でピザを食べながら映画を見て、感想をシェアする。正解を求めなくてもいい。感想を率直に語り合う。そんなやり取りを続ける中で、「社員が語り合える場」が自然と出来上がっていきました。「仕事の効率がいきなり上がるわけではありませんが、共に過ごした時間は言葉では説明しきれない信頼関係につながる。少しずつ手応えを感じるようになっていきました。」と佐久社長は話します。
部署も年齢も超えて 仕事と関係ない時間が育むチームワーク
同社では映画観賞会をきっかけに、社員がお互いを理解しながら交流できる場を積極的に設けるようになりました。部署も、立場も、年齢も、性別も関係なく、とにかく楽しい時間を共有する。そこからコミュニケーションが生まれ、徐々にチームワークが醸成されていったのです。
同社では、平成29年から2泊3日のオフサイトミーティングを実施しています。5人1組のチームを組み、目隠しをした4人がリーダーの指示に従ってテントを組み立てる「ブラインドテント」など、大手企業も採用するチームビルディングの手法を取り入れながら社員同士の交流を深めています。また、一冊の本をもとにそれぞれの立場での気づきや考え方を語り合う読書会などのワークも実施しているそうです。「仕事とは直接関係のないテーマで話し合い、それぞれどう感じたかを率直に語り合うことで、互いの価値観や考え方を知ることができ、日常業務では見えにくいお互いの一面を理解し合う機会になっています。」と、同社の広報担当を務める神谷友芽さんは話します。
広報担当 神谷 友芽 さん
実際にこの「ブラインドテント」に参加した竹島百合香さんは、「とにかくみんなで盛り上がれるのが楽しかったです。年の離れた先輩たちと一緒に一つのテーマに取り組むことで、自然と会話も生まれるようになりました。」と振り返り、「イベントを通じていろんな人と交流できるので、誰とでも気兼ねなく話せるのがいいですね。」と話します。
「Studio #02」で勤務する竹島 百合香 さん
オフサイトミーティングではバーベキューやカヌーレース、アスレチック、火おこしチャレンジなど多彩なアクティビティを企画。また、それ以外にも、養蜂体験や酪農研修、鹿児島県にある知覧特攻記念会館への訪問など、社員が時間や価値観を共有するためのさまざまな研修も実施しています。こうした体験を通じて、社員同士が共通の思い出を育むようにしています。
オフサイトミーティングで企画されたアスレチックやバーベキュー
また読書会なども定期的に開催 部署の垣根を超えた社員の交流を促している
部門や年齢などに関係なく、食事の席などもくじ引きにして固定のメンバーで固まらないよう工夫しており、今ではイベントのほとんどを社員が自発的に企画・参加しているそうです。
社員主導のプロジェクトで主体性を育む
今回取材に訪れた東郷町の「Studio #02」は、同社のメインとなる製造拠点です。現在80名ほどのスタッフが勤務しており、平成29年には同社の新たなシンボルとなる「KARUTA」を新設しました。1階に研究や実験に取り組めるスペースを設けるほか、2階には社員の憩いの場としてオシャレな社員食堂や暖炉のあるスペースを設置。佐久社長が掲げる「製造業をもっとおもしろくしよう!」というビジョンをそのまま体現したような空間が広がっています。
この「Studio #02」の建設に際しても、社員主導のプロジェクトが立ち上がり、チームのメンバーたちが社員の声を反映しながら構想段階から作り上げていきました。同社ではこのような社員主導のプロジェクトがさまざまな場面で立ち上がっています。プロジェクトは、業務と並行して取り組むことになりますが、互いに相手の行動や夢を応援する環境が整っており、社員一人ひとりが個性を発揮しながらのびのびと行動できるのが大きな特徴です。
プロジェクトメンバーが構想を練り 完成した「KARUTA」
1階には研究や実験に使えるスペースを設置
暖色を基調とした2階ロビー
2階にある暖炉スペース
社員が安心して働ける環境がチームを強くする
チーム力を発揮できる組織を醸成するためには、「やはり『社員が安心できること』が一番です。」と話す佐久社長。「今は社員一人ひとりが個のスキルを高めて自立するというのが主流ですが、それは言うほど簡単ではないし、本人も必ず疲弊します。自分ができないのであれば、周りの人と協力してやればいい。それが組織のあるべき姿だと思います。」
その言葉どおり、社員からも温かい職場の雰囲気を実感しているという声が聞かれます。
神谷さんは入社当初を振り返りながら「皆さんがとても温かく迎え入れてくれたのが印象的でした。」と話します。「入社間もないタイミングで、東京の拠点で勤務している人から『最近すごい頑張っているって聞いたよ!』と声をかけてもらったことも。別の拠点の人まで気にかけてくれていることに驚きましたし、安心感を覚えましたね。」
「KARUTA」2階の社員食堂で昼食を取る社員の皆さん
竹島さんも「当社には入社後3年間、毎月1冊の本を読んで感想文を発表する読書課題があるのですが、これに毎回コメントを残してくれる人がいて、ものすごく親近感がわきました。自分に対して興味を持ってくれる人がいるのがうれしいですね。」と話します。
同社では、新入社員向けにオーダーメイドの研修カリキュラムを用意。先輩社員がマンツーマンで指導する「ルーキートレーナー制度」を導入し、週に1回1時間、仕事を通じて学んだことや感じたことを共有しながら次のアクションを考えたり、新社会人ならではの悩みを相談したりする場を設けるなど、新入社員がチームに早くなじめるように先輩社員がきめ細かくサポートを行う体制が整っています。これらの取り組みにより、同社の入社5年以内の定着率は93.5%を誇っています。
制度より信頼 「余白」が生む自走する組織
社員同士がお互いを理解し、持ち味を存分に発揮できるような企業風土を育んでいく。そのために必要なものは「“余白”を持ち、目先の成果を問わないことです。」と佐久社長は力説します。「経営者側が『すぐさま利益につなげたい』と考えてしまうとうまくいかないですね。」
「個」を重んじる風潮が強い世の中で、その逆を行くこうした取り組みを続けることに、佐久社長自身「世の中の常識との違いを感じることがある」と言います。それでも一歩ずつやり続けることで、会社の風土は少しずつ、着実に変わっていくと佐久社長は言います。「大手企業の真似をしたり、コンサルタントの意見を鵜呑みにしたりせず、自分たちの会社はどうあるべきかを自らの頭で考えること。その先に社員一人ひとりの感性の扉を開くきっかけが待っていると信じています。」
佐久社長は“組織運営のあるある”として「新たな制度で人を動かそうとすること」を挙げます。「私自身もかつてはそうしようと思った一人ですが、制度で縛ったり、評価で追い立てたりするような"恐怖"では人は動きません。それよりも自分でやりたいと思える環境を作り、ワクワクしながら自走してもらうことが大事です。制度を整えることに心血を注ぐのではなく、お互いの信頼関係を築くことを考える。そうすればきっと制度で縛ること以上に活躍してくれるはず。経営者がそう信じることが大切だと思いますね。」
DATA
株式会社河合電器製作所(本社:名古屋市天白区中平1-803)
名古屋市に本社を置く河合電器製作所は、産業用ヒーターの開発・製造を手掛けるパイオニア企業です。「熱のプロフェッショナル集団」として、確かな技術力でさまざまな企業のニーズに応えてきました。新たな販路を積極的に開拓し、半導体関連の取引拡大をはじめ、熱技術に関するコンサルティング業務なども幅広く展開。医療、次世代エネルギーなど多岐にわたる分野で欠かせない存在となっています。細かなニーズに寄り添う提案力と、長年培った高度な開発体制を武器に、愛知県から世界のモノづくりを支えています。
(令和8年2月取材)
