天空海遊の宿 末広
週3日休館日制で若い人材の離職率を改善
365日営業していることが当たり前ととらえがちなホテル旅館業。
その中で、蒲郡市にある『天空海遊の宿 末広』は『週3日休館日制』を打ち出し、従業員の週3日の休日固定化という働き方改革を推進しました。
結果、若い世代の就職志望者が増加するとともに定着率も向上。
現在、従業員の約6割が20代前半、平均年齢は30代前半へと低下しました。
今回は、総支配人の岩下実さんに導入の背景やねらい、そして取り組みについてお聞きしました。
「休日の予定が立てられない」
第一のねらいは『休み方』を変えること
令和元年に火曜日から木曜日までを休みとする『週3日休館日制』を導入した『天空海遊の宿 末広』。大胆な働き方改革を行った背景には、若い人材の3年未満離職率が約80%にまで悪化していたことがあったそうです。ホテル旅館業では、予約状況に応じて従業員のシフトを組みますが、急な予約が入った場合は、休日予定であった従業員に出勤をお願いするケースがたびたびあります。そのため、従業員からは「急な出勤がいやだ」、「休日の予定が立てられない」と不満の声も。岩下さんは「休日の取り方を変えなければ定着率を改善することができない」と感じたと言います。
また、平日と休日前の稼働率格差も導入の背景にはありました。「水曜日や木曜日は大幅に稼働率が低下します。悪い時には20%を切ってしまうこともあり、果たして営業することに意味があるのかという思いもありました。そこで、人材の定着率、稼働率の格差、2つの課題を解消するためにはどうすることがベストか。そこから検討をはじめました」と話す岩下さん。
まずは過去5年間の曜日別平均稼働率や売上推移などのデータを見直しました。週1日の休館日も検討したそうですが、光熱費などの経費削減効果が期待できるのは3日連続で休館にした場合とわかり、週3日休館にした場合の想定稼働率を踏まえ、宿泊単価を新たに設定するなど、さまざまなシミュレーションを行い、導入に至ったそうです。
「従業員からは休みが固定されて嬉しいという声を聞いています。また、週3日の休みということで求人への若者の応募が増えています。現在、若い人材の3年未満離職率は10%を切りました。大いに効果があったと感じています」。
マルチタスク制&リーダー職導入で
効率的な『働き方』を推進
ホテル旅館業では、限られた人員の中でもサービスの質を落とさないことが重要です。そこで、まずは組織改革に着手。従来のフロントと接客を『接客部門』に、調理と施設管理を『準備部門』として統合し、一人ひとりの従業員が複数の業務を行うマルチタスク制を採用しました。そして、現場の状況を判断し、的確に人員を配置するためのリーダー職を各部門に設置。例えば、フロントと接客では、忙しくなる時間が異なるため、必要な人員を必要な業務へ回す役割を担います。
「マルチタスク制の目的は、時間の有効活用です。手が足りない現場のフォローをして、1日の業務の中で生まれる隙間時間を減らすことを目指しました。同時に、1日の全体の業務を見直し、隙間時間を利用してできることがないかも検討。それぞれの従業員がさまざまな業務をこなせるようになったことで、少ない人数でも効率的に運営できる体制になりました」。
現在、マルチタスク制をさらに発展させ、部門の枠を超えてサポートする体制づくりに向けて研修を行っています。そのねらいは、それぞれの業務の理解を深めることにあるそうです。その結果、従業員間でのコミュニケーションも高まり、一体感も生まれていると言います。
「今までは、担当していない業務の現場が今どのような状況にあるのか、どんな苦労をしているのか、理解せずに自分の担当する業務を行っていました。それぞれの立場の相互理解が進むことで、連帯感、チームワークを意識する風土が生まれました。とてもよい雰囲気になっていると感じています。」
宿泊客対応者はフロントと接客を、その他の業務は裏方担当が行うなど各従業員が担当する業務範囲を拡大。
将来的には旅館全体のマルチタスク化を軌道に乗せたいと岩下さんは話す。
働き方改革で従業員のモチベーションもアップ
今回の『週3日休館日制』の導入において、岩下さんが大切にしたことは、従業員と目標を共有することだと話します。導入に向けて従業員と話し合う中、不安を示す人もいたそうです。岩下さんは「みんなが働きやすい環境にしたい、長く働いてもらえる職場を目指したい」と時間をかけて思いを伝えたそうです。
現在の従業員からは、「4日間働けば休みになるとわかっているので、精神的にもラクです」「3日間連続で休めるので、旅行や帰省など予定が立てやすく、休日が楽しめる」という声もありました。みなさんに共通していることは「働くモチベーションになっている」ということです。
さらにモチベーションを高めるため、お客様のアンケート結果はすべて公開し、情報共有をはかっているそうです。また、従業員からの意見は、リーダー職や部門長を通して把握し、サービスの向上やイベント企画などに積極的に反映。みんなでホテルを盛り上げていこうという意識が定着してきたとのことです。
最後に、今回の働き方改革について総括していただきました。
「いちばんの変化は、従業員一人ひとりの表情です。若い世代が中心となったことで、雰囲気も大きく変わりました。人材の定着率もアップしましたし、高校生の職場見学も増えています。また、宿泊単価をアップせざるを得なかったため、リピーター客が離れたこともありましたが、屋上の露天風呂や足湯からの眺望をはじめ、地産地消の食材にこだわったシーズンごとの料理、チェックアウトの際にお土産をプレゼントするサプライズのおもてなしなど、さまざまな付加価値を追求したこともあり戻りつつあります。平均稼働率も80%を超え、目標まであと一歩です。今後も従業員みんなで力を合わせ、お客様の評価を高めていきたいと思っています」。
DATA
天空海遊の宿 末広(株式会社ホテル末広/愛知県蒲郡市西浦町大山17)
露天風呂付や足湯付など、13タイプ44部屋あり、全部屋オーシャンビュー。
こだわりは、屋上に備えた露天風呂&足湯からの眺望と開放感。
シーズンごとに変更する料理には地元ならではの食材を採用。
宿泊プランのほか、日帰り入浴プラン、日帰り昼食プランを用意。