労務管理WEB連載コラム



休職手続きにおいて就業規則を守らないと痛い目にあう

 私は、メンタルヘルスなど様々な休職に関する法律相談を受けることがありますが、実は会社が就業規則を守っていないことが多く対応に苦慮することがあります。今回は、ある裁判例(北港観光バス事件 大阪地裁平成25年1月18日判決 以下「本件判決」という)をもとに説明したいと思います。



1 事例

 被告企業が原告を休職期間満了で自然退職扱いをしたところ、原告が「そもそも休職命令が発令されておらず、休職期間は満了していない。自然退職扱いは無効である」と主張し、従業員としての地位確認等を求めた事例です。
 就業規則は休職命令について、以下の通り定めておりました。
「第52条 従業員が次の各号の一に該当するときは休職を命ずる。 
 但し,第3号以外の場合は,一切の賃金を支払わない。
(1)業務外の傷病により通算して1ヶ月以上欠勤したとき。」



2 自然退職扱いでも法的には解雇と同じように争うことができる

 前提として、会社が就業規則にもとづいて休職期間満了による自然退職扱いとしたとしても、法的には解雇と同じように厳しく判断されます。
 何となく「自然退職」などの文言があると自然に退職したので争うことができないと思ってしまうところですが、あくまでも会社が「自然」と解釈しているだけで、復職したい従業員側からは「自然」な退職とは言えない可能性があるからです。エールフランス事件(東京地裁 昭和59年1月27日決定)以降の裁判例において確立しておりますので注意が必要です。



3 休職命令を発令せずに休職扱いとなるか

 実務上よく直面する問題です。従業員が欠勤し、会社はその後特に何も対応せず時間が経過し、気がついたところで就業規則を確認して自然退職扱いとするものです。
 つまり休職命令を発令せずに期間満了で自然退職扱いをすることができるかという問題です。
 以下の通り、法的に休職扱いとするためには、使用者が休職命令を発することが必要であると判断しています。
 「使用者が,休職期間満了により労働者を退職扱いとするためには,労働者に就業規則上の休職事由が存在すること,使用者が休職命令を発したこと及び休職期間が満了したことが必要であり,これらの要件を満たす場合に,労働者が休職期間満了による退職の効果を否定するためには,休職期間満了の時点で就労が可能であったことを立証する必要がある。」
 「本件で取り調べた全証拠及び弁論の全趣旨によっても,他に,被告が,原告に対し,明示的に就業規則第52条に基づく休職を命じた事実は認められない。」



4 自動休職の条項は有効か

 それでは就業規則の規定を「下記休職事由を満たせば自動的に休職となる」といわば自動休職条項に変更すれば、どうなるのでしょうか。
 裁判所は以下の通り間接的ながら自動休職条項も有効であると判断しているように読めます。「下記休職事由を満たせば自動的に休職となる」との自動休職条項を定めることも検討しても良いかもしれません。
 「hは,業務外の傷病による欠勤が1か月を超えると,自動的に休職となるかの如く証言するが,被告就業規則52条は,「1か月以上」欠勤したときは「休職を命じる」と定めているから,欠勤が1か月に達した時点で当然に休職になることを定めた規定とは解されない(被告もかかる主張はしていない。)。」



5 就業規則に定めた復職ルールを守らないといけない

 以下の「傷病のため休職者が復職を願い出たときは,会社の指定した医師の診断により業務に支障がないと認めた場合は復職させる。」との条項は、よく見かける規定です。
 しかし、実際に実行するとなると非常に煩雑です。そもそも依頼する医師のあてもなく、医師が見つかったとしても、なかなか時間がかかることがあります。それどころか、そもそも休職についての就業規則の条項を確認せずにいきなり自然退職扱いをすることもよくあります。
 会社が自分で就業規則に定めた復職ルールはきちんと守らなければなりません。裏返せば守れない復職ルールを就業規則に定めてはいけません。
 「被告は,原告が復職を申し出ていたのであるから,就業規則55条1項の「傷病のため休職者が復職を願い出たときは,会社の指定した医師の診断により業務に支障がないと認めた場合は復職させる。」との規定に従い,原告に対し,指定医の診察を受けるよう指示するなどの方法により原告が復職可能であるか否かを判断することができ,かつ,そうすべきであったにもかかわらず,原告に指定医の診断を受けるよう指示した事実も認められず,k医師及びi医師の上記診断結果を覆すに足りる証拠はない。」



6 休職期間は休職命令が発令されたからカウントされる

 休職期間は休職命令が発令された時から期間が始まります。当たり前と言えば当たり前ですが、実際は後手に回り、バックデートして休職命令を発令することがあります。例えば、1月1日から就業規則の規定上は休職期間が始まるところ、うっかりしていたため、1月15日付で休職命令書を出し、その中で1月1日から休職期間が始まっていたことを記載することがあります。これは正しくなく、法的には1月15日(正確には命令書到達時から)から休職期間が始まるということになります。この点も注意が必要です。
 「被告の休職制度は,欠勤が1か月に達した時点で自動的に休職になるというものではなく,1か月以上欠勤したときは休職を命じるというものであるから,休職期間の始期は,休職命令が発せられたときである」


7 まとめ

 いかがでしょうか。なかなか会社にとって厳しい判断だと思いますが、これは特に厳しいものでは無く司法判断における標準的な考えだと思います。「自分で定めたルールはきちんと守る」この当たり前のことを実行することは意外と難しいものですが、守らない場合は思わぬ結果を招きます。ご注意いただければと思います。