『雇用のミスマッチ』 連載第3回
離職理由から見るマッチングの質の高め方
前回は労働者の立場から見る職探しと、企業の立場から見る求人のプロセスを観察することにより、雇用のマッチングにかかるお互いの多大な労力が雇用のミスマッチを起こしてしまう理由となることを解説しました。しかし、お互いの大変な労力のもと雇用関係が結ばれたとしても、その雇用関係が長続きしないケースもたくさん見られます。
近年話題にあがる雇用の問題の一つとして、毎年4月に新しく採用された新卒の労働者が早々に辞めてしまう事例が、ネットを含む様々なメディアで報じられます。今回はなぜこのようなことが起こるのか、雇用のマッチングの「質」について考えてみたいと思います。
七五三現象(離職)という言葉をご存知でしょうか。新卒で就職して3年以内の離職率が、中卒就職者では7割、高卒就職者では5割、そして大卒就職者では3割、であることを表した言葉で2000年前後に現れたと言われています。
現在はその状況が少し変わってきており、2020年の状況では中卒就職者では52.9%、高卒就職者では37.0%、大学就職者では32.3%となっていて、中卒や高卒の3年以内離職率は減少傾向にあります。
これは各自治体の労働局や学校教員による学生のより希望がかなった職業を探すための取り組み、もちろん新卒の労働者自身の職探しの努力などが実を結んでいると言えるでしょう。
これは素晴らしいことでこのコラムのテーマである雇用のミスマッチを改善する上で大変参考になる取り組みであると言えます。
一方でその水準は当時の七五三からは減少しているとはいえまだ非常に高い数字であり、大卒就職者に関しては高止まりしています。より一層マッチングの質を高めて雇用のミスマッチを無くす取り組みが必要であると言えるでしょう。
そもそも、せっかく時間や労力をかけて労働者は履歴書を書いて職探しを行い、企業も求人を様々な媒体に公表し、選考のための書類を読んだり面接を行ったりしてきたはずです。労働者がすぐに離職してしまうのはもったいない気がします。せっかくマッチングが成立してもその質に問題があればすぐにその関係が解消されてしまい、またーから職探しを行わなくてはならないからです。
では労働者が離職してしまう理由はどのようなものでしょうか、まずは厚生労働省が公表している個人的理由における離職理由の調査を見てみましょう。
データを見てみると「労働時間、休日等の労働条件が悪かったから」「給料等収入が少なかった」「仕事の内容に興味を持てなかった」という理由が上位にきています。前回のコラムを見てくださった方は不思議に思うかもしれませんが、求人票には賃金を含む労働条件や仕事内容は明記されているはずです。ここで起こってしまっていることの一つとして、求人票に書いてあることと労働者が感じる労働内容の実態に乖離が生じていることが考えられます。マッチングの段階でお互い情報を伝えあい、この乖離を無くすことがマッチングの質を高めて早期の離職を防ぐことになると言えそうです。
さらに「その他の個人的理由」の中には、「ほかに良い仕事があったから」「いろいろな会社で経験を積みたいから」という理由が含まれているとされています。労働者にとって最終的に自分の希望に沿った仕事を見つける過程とみなすとポジティブな要因がありそうですが、企業側の負担は発生します。マッチングの必要なコストであるかもしれませんが負担のゆがみには注意が必要かもしれません。
一方で会社に入ってみなければわからないことも多いことを実感させられるデータでもあります。「職場の人間関係が好ましくなかった」「会社の将来が不安だった」「能力・個性・資格を活かせなかった」に関しては求人票を見て応募する段階ではなかなか自分の希望にそったものを見つけるのは難しいですし、外から判断することは無理かもしれません。新卒採用の段階では例えばインターンシップやオープンカンパニー、OB訪問などの機会があればこれらの項目に関するある程度の情報を得ることができるかもしれませんが、できる範囲が限られていますし、完全に外部から判断することはやはり難しいでしょう。
せっかくマッチングして雇用関係が結ばれたならば、それがなるべく長く続くことがなによりのぞましいと言えます。早期退職を防ぐために企業側は新規の雇用者に関するフォローアップも積極的に行っていますが、そもそもマッチングの段階でなるべく労働者がその実力を発揮できる環境を選ぶことが重要です。マッチング後のことも考えつつ、企業と労働者のお互いが求職と採用のプロセスを進めることが大切かもしれません。
次回に続きます。