『雇用のミスマッチ』 連載第4回(最終回)


雇用のミスマッチは職探し中だけではなく就業しているみなさんの周りでも身近にある問題で、求職活動を行う労働者、求人活動を行う企業の双方の立場にとって様々な苦労があることを解説してきました。
最終回となるこのコラムでは雇用のミスマッチを解消し、マッチングの質に関しても高める方法をみなさんと考えていきたいと思います。ここでは実際に利用できる政府や地方自治体が提供する支援プログラムを観察することが目標達成への近道でしょう。特に最近では就職氷河期世代に対する積極的な支援が打ち出されています。この支援の具体的な施策の仕組みを見ていくことにより、すべてのみなさんによりよいマッチングを目指すカギを見つけてほしいと思います。

雇用のミスマッチに対する具体的な施策を見ていく前に、そもそも就職氷河期世代とはどのようなものでしょうか。バブル崩壊後の1990年代中頃から2000年代初頭にかけて経済状況が低迷している時期に就職活動を行った世代で、若年期に良い雇用機会に恵まれなかった結果、中年期となった現在まで様々な問題を持続的に抱えてしまっている世代と言われます。(ある世代の就職時の不景気がその後の雇用などに継続的に負の影響を与えることを「世代効果」もしくは「瑕疵効果」と呼びます。)実際のデータを見てみても、1995年(平成7年)くらいから大卒の就業者の割合は減少しており、逆に「一時的な仕事に就いた者、進学も就職もしていない者の割合」は増加しています。この傾向が2000年(平成12年)過ぎにピークになっています。

人は生まれてくるタイミングを自分で選べないので、新卒で就職活動を始めるタイミングも(ほとんど)選べません。就職活動の時期のみによって持続的な問題を抱えるかどうか決まってしまうのは自分の努力や資質とは関係ない不公平が世代間で発生しています。政府も最近になってこの問題について本格的な支援を行い始めています。

厚生労働省 就職氷河期世代の労働者への支援技法 図表2-1 「大学(学部)卒業者の進路状況」より引用

支援策の大きな柱の一つが職業スキルや知識の訓練です。雇用のミスマッチが起きる原因の一つが、企業側が求める労働者のスキルと求職活動を行っている労働者が習得しているスキルが異なることです。設備の施行管理や機械の操作、食品の衛生・品質管理、IT系やWebデザインの技術、介護・福祉、美容サービスなど各仕事に応じて必要なスキルは当然異なります。
労働者が望む仕事に就くための職業スキルや知識の習得は政府の支援のもとで行うことができます。上で挙げたような例にとどまらず多種多様なスキルを身に付けるための職業訓練が用意されており活用できます。
しかし、せっかく身に付けた技術やスキルが仕事の場で有効に活用できない、もしくは短期間でスキルを活かせなくなってしまうならば効率的とは言えません。よりよいマッチングを達成するためにはスキルの受け入れ側、すなわち求人を出す企業側の体制も整える必要があると言えます。2023年に政府は「三位一体の労働市場改革」を進めるための指針を発表しました。これは「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の三つを日本全体で推し進めるということです。
この政策を簡潔に要約すると、従来の日本における正社員は社内での部署間の異動がありその都度必要な職務(スキル)が異なっていました。また、残業などの柔軟な労働時間の変更や転勤による住居の移動も受け入れる必要がありました。(メンバーシップ型の雇用と言います)これに対して職務(スキル)をある程度限定したジョブ型の雇用(人事)を行うことにより労働者が身に付けたスキルを最大限活用することを目指そうということです。その結果、労働者がスキリング(訓練)により身に付ける職業スキルの価値を高めてスキルアップを選択しやすくなり、労働者がより高い生産性を発揮しやすい環境の実現を計ります。

労働者自身が望むスキルや知識を習得し、企業がそのスキルや知識を最大限活用する。その結果企業が業績を伸ばし、労働者もよりよい待遇を得ることができることができる素晴らしいマッチングを目指すことです。このようなスキルのミスマッチの解消を目指してよりよい雇用環境を目指す取り組みが政府・地方自治体が主導で行われていますので、みなさんもマッチングの質の向上の参考にしてください。


職業スキルや知識以外にも、経験や年齢・勤務条件などが一致しないと雇用のミスマッチが起こります。このミスマッチを解消するために厚生労働省は就職氷河期世代限定・歓迎求人の情報を集めて公表することを行っています。日本では新卒一括採用が一般的な雇用慣行と言われますがそのメリットの一つが、新卒学生を採用したい企業と新卒の採用枠を探している新卒学生の双方の条件があらかじめマッチしていることで、お互いに相手を探すコストを減らせることです。氷河期世代に限定する求人も同じように勤務条件の不一致に関するミスマッチの解消を支援し、企業側・労働者側双方のコストを減らす素晴らしい取り組みで、お互いの積極的な活用が期待されます。

それ以外の支援としては就職氷河期向けセミナーや応募書類の作成支援や面接指導、就職後の定着支援などマッチングの支援が充実しています。
また、このコラムが場所をお借りしている「はたらくネットあいち」のWebサイトにも求職時に役に立つ様々な支援やセミナーの情報が揃っていますのでぜひ参考にしてください。


このコラムでは雇用のミスマッチについて考えていきました。雇用に限らずマッチングを上手く達成するコツは相手の立場に立って考えてみるということです。もし求職(求人)活動をしているならば、相手である求人(求職)をしている企業(労働者)がどのような考えでその求人(求職)をしているのか一度考えてみましょう。それがお互いの間のミスマッチを無くし、よりよいマッチングを達成する近道であると言えます。
経済学で研究されているマッチングの理論や日本の雇用の現状、政府の方針や支援策をなるべく平易な文章で解説できるように心がけました。このコラムが皆様の求職活動の一助となれば幸いです。